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Deep Dive

🔬 Deep Dive|Starlink Mobile、衛星と地上と低い周波数の3枚がそろう

SpaceX が全米の800MHz 帯の取得で合意し、2GHz 帯と D2D 衛星1万5,000基に低い周波数が加わった。翌日の通常取引で米通信3社の株価は10〜13%下げた。

LiveMakers 編集デスク

🔬 Deep Dive|Starlink Mobile、衛星と地上と低い周波数の3枚がそろう

SpaceX は10月8日、Grain Management が持つ全米の800MHz 帯ライセンスをすべて取得することで合意した。2025年に EchoStar から買った2GHz 帯、10月6日に米連邦通信委員会 (FCC) が認めた携帯直結 (D2D) 衛星1万5,000基と合わせ、衛星から直接届く通信網、地上の基地局、建物の中まで届く低い周波数という3枚のカードが Starlink Mobile の手元にそろった。

発表直後の時間外取引で AT&T・T-Mobile・Verizon の株価はそろって約7%下げ、翌9日の通常取引の終値は前日比で10〜13%安となった。市場はこの取得を、米国の携帯電話市場を3社で分け合ってきた構造が崩れるリスクとして値付けした。取得合意そのものは 10月9日の記事 で伝えた。本稿はその先を見る。単なる周波数の売買ではない。宇宙産業の稼ぎ方が、打ち上げと衛星ブロードバンドから、通信キャリアそのものへ広がり始めている。

800MHz 帯は、長く使われなかった周波数

今回の800MHz 帯は、817〜824MHz と862〜869MHz を上りと下りの対にした帯域だ。もとは Sprint のもので、2019年に T-Mobile が Sprint と合併する際、米司法省がこの帯域の売却を承認の条件にした。売り先として用意されたのが、4番目の携帯キャリアとして送り込まれた DISH Network だった。

DISH は買い取りの権利を行使しなかった。権利は2024年4月1日に期限を迎えて失効した。FCC は2026年7月の命令で、この周波数が「近年は十分に使われてこなかった」と書いている。売却先が決まらないまま、全米をほぼ覆う低い周波数が何年も眠っていた。

動いたのは2025年3月だ。T-Mobile は Grain に対し、現金29億ドルと Grain が持つ600MHz 帯 (212郡・人口の約15%) との交換で、この800MHz 帯を譲る申請を FCC に出した。Grain が受け取るのは3,224郡で4.85〜14MHz 幅、カバーする人口はほぼ100%にのぼる。FCC は2026年7月1日に承認し、取引は8月に完了した。

承認には条件が付いた。地上網なら3年後 (2029年7月1日) までに中間目標、8年後までに最終目標を満たす。衛星事業者と組むなら、中立の第三者を立てた公開の選定手続きを8月7日までに始め、11月5日までに終えて結果を FCC に届け出る。それから2か月余りで SpaceX は100%の買い手として名乗り出た。

そろった3枚のカード

1枚目は容量だ。SpaceX は2025年9月、EchoStar から AWS-4 帯と H ブロックを約170億ドル (現金と SpaceX 株が最大85億ドルずつ) で取得することで合意し、11月には AWS-3 帯の一部を約26億ドル相当の SpaceX 株で加えた。FCC は2026年5月12日、この譲渡を信託を経由する2段階の取引として承認している。

2枚目は衛星群だ。FCC は10月6日付の命令で、1万5,000基の D2D 衛星群を一部承認した (一部は判断を保留)。2032年10月7日までに半数、2035年10月7日までに全数を打ち上げて運用する期限が付く。SpaceX は、この第2世代の衛星が現行世代の100倍を超える帯域を普通のスマートフォンへ届けると説明する。

3枚目が今回の低い周波数だ。SpaceX の発表によれば、取得するのは800MHz 帯で最大14MHz 幅の対になった周波数で、2GHz 帯が容量を担い、800MHz 帯は壁を通り抜けて建物の中まで届く「届く範囲を担う層」を担う。衛星直結の弱点は屋内のつながりにくさだった。そこを埋める設計になっている。

ただし、これは会社の計画であって実測の結果ではない。SpaceX は800MHz 帯を衛星と地上の基地局の両方に使う構想を示しているが、地上網をどの規模で、いつ建てるかは発表に書かれていない。既存の端末の多くがこの帯域に対応している、というのも同社の説明だ。

3社の株価が下げた意味

時間外の約7%に続き、9日の通常取引の終値は AT&T が24.87ドルから22.18ドル (10.8%安)、T-Mobile が171.31ドルから148.58ドル (13.3%安)、Verizon が46.35ドルから41.65ドル (10.1%安) だった。AT&T の出来高は前日の約3倍に膨らんだ。

3社の株価には、米国の携帯電話市場を3社で分け合う寡占の価値が含まれている。周波数は国が割り当てる有限の資源で、新規参入の最大の壁になってきた。その壁を、地上の通信会社ではない会社が、買い集めた周波数で越えようとしている。

周波数の量の差はまだ大きい。Reuters が8月に伝えた調査会社 New Street Research のアナリストの見方では、3社が持つ周波数は合わせて約1,000MHz で、SpaceX が EchoStar から得た65MHz とは桁が違う。それでも市場が反応したのは、周波数の組み合わせが変わったからだ。地上の基地局を全国に建てる費用を、衛星が圏外と郊外を受け持つ形で圧縮できるなら、少ない周波数でも全国を覆う道筋が描ける。

前例は重い。DISH は司法省の後押しで4番目のキャリアになったが、800MHz 帯を買わず、親会社の EchoStar は最終的に周波数を AT&T と SpaceX に売る側に回った。地上だけで4番目の全国網を建てる試みは、資金と時間に押し切られた。SpaceX はその EchoStar から周波数を買い、衛星という別の建て方で同じ場所を目指している。

関係は単純な競争でもない。T-Mobile は SpaceX と組んで衛星直結のサービスを提供しており、FCC の10月の命令も、SpaceX が T-Mobile の周波数の一部を借りて衛星から使う既存の取り決めに触れている。協業相手が、同時に周波数を持つ競争相手になる。Reuters によれば、3社は衛星を使った通信の合弁会社も立ち上げている。

AST SpaceMobile との争奪

同じ800MHz 帯には、もう1つの買い手候補がいた。AT&T や Verizon と組む AST SpaceMobile だ。AST は6月30日付で FCC に書簡を出し、衛星事業者が Grain との取り決めを通じてこの帯域を使えるようになる、と取引を支持した。FCC の7月の命令はこの書簡を引いている。

Broadband Breakfast によれば、AST は8月、この817〜824MHz と862〜869MHz を使って最大100台の市販端末で衛星直結を試す30日間の特別一時許可を FCC から得た。試験は商用ではなく、AT&T や Verizon、公共安全網の FirstNet との調整が条件だった。Bloomberg は同じ8月、SpaceX と AST が、約60億ドル規模とされる Grain の周波数の取得を探っていると報じた。

結果は SpaceX の100%取得だった。9日の通常取引では AST の株価も56.93ドルから50.965ドルへ10.5%下げた。地上の3社だけでなく、衛星側の競合にも重い1日だった。

次に見るもの

残る関門は3つある。

  • Grain と SpaceX のライセンス譲渡: FCC の最終承認が要る。申請が公開されて意見募集に入れば、3社や AST が何を主張するかが見える。確認先は FCC の T-Mobile・Grain 案件の手続き (WT Docket No. 25-178) で、Grain は11月5日までに衛星事業者の選定結果をここへ届け出ることになっている。衛星の免許申請の期限は12月4日だ
  • 10月29日の FCC 公開会合: D2D の規則見直し案 (地上の携帯会社の周波数を衛星から使う制度 SCS の対象に482MHz を加える) と、1675〜1695MHz・2020〜2025MHz の計25MHz を地上・D2D・その組み合わせ向けに競売する案が議題に載っている。D2D の土俵そのものが広がるかどうかが決まる
  • EchoStar 取引の第2段階: 2GHz 帯を SpaceX が使う権限は、信託から SpaceX への譲渡 (第2段階) の完了が条件になっている。完了すれば30日以内に FCC へ届け出がある

衛星事業者が地上の通信網と同じ周波数の土俵で、全国のキャリアとして名乗りを上げた。FCC が11月から12月にかけてどの条件を付けるかで、Starlink Mobile が地上の携帯網と並ぶまでの時間が決まる。

ことば

  • D2D (Direct to Device) — 衛星から、専用のアンテナを使わずに普通のスマートフォンへ直接つなぐ通信。今回の衛星群の承認と800MHz 帯の取得は、この方式を圏外対策から本格的な携帯サービスへ広げるための組み合わせになっている。
  • SCS — 地上の携帯会社が持つ周波数を衛星事業者が借りて、地上網の圏外を空から補う FCC の制度。10月29日の会合では、この制度で使える周波数を482MHz 増やす案が議題に上がる。
  • 特別一時許可 (STA) — FCC が試験や緊急時の運用のために、期間を区切って出す臨時の免許。AST の800MHz 帯の試験は30日間の STA で行われ、商用サービスとは区別されている。

🔗 一次ソース

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