Deep Dive
🔬 Deep Dive|企業の AI 利用、Eurostat は 2 割で総務省は 86%
EU の統計局 Eurostat によると、2025 年に AI を使っていた EU 企業は 20.0%。総務省の令和 8 年版情報通信白書では日本企業の管理職への調査で 86.4% が生成 AI を使っていると答えたが、物差しが違い、どの統計でも共通するのは大企業と中小企業の差だ。
EU の統計局 Eurostat によると、2025 年に何らかの AI 技術を使っていた EU 企業 (従業員 10 人以上) は 20.0% だった。総務省が 7 月 24 日に公表した令和 8 年版情報通信白書では、日本企業の管理職への調査で 86.4% が「自社の何らかの業務で生成 AI を使っている」と答えている。
Eurostat:20% of EU enterprises use AI technologies (2025 年 12 月 11 日・20.0%、前年 13.5%、2021 年 7.7%・2023 年 8.1%、用途別 11.8% / 9.5% / 8.8% を確認)ec.europa.eu
同じ「企業の AI 利用」が、統計によって 2 割にも 9 割近くにもなる。違いを生んでいるのは国の差より数え方で、数え方をそろえて読み直すと、どの統計にも共通する差が 1 つ残る。会社の大きさだ。
AI を作る側の売上や投資の数字は毎日のように出てくる。だが、その投資が回収されるかどうかを決めるのは、使う側の会社がどこまで AI を仕事に組み込むかだ。本稿では、日米欧英の公的な統計を並べ、使う側の現在地を確かめる。
4 つの統計は、別々のものを数えている
まず、それぞれの数字が誰に何を聞いたものかを並べる。
- Eurostat (EU): 企業の ICT 利用調査。従業員 10 人以上の企業に、文章の解析・画像認識・音声認識・機械学習などの AI 技術を 1 つ以上使ったかを聞く。2025 年は 20.0% で、前年の 13.5% から 6.5 ポイント上がった。2021 年は 7.7%、2023 年は 8.1% だった
- 米国勢調査局 BTOS (米国): 隔週の企業調査。2025 年 12 月 14 日から 2026 年 5 月 3 日までの利用率は 17〜20% の間で推移し、5 月 3 日までの期間は 19.8% だった。ただし 2025 年 11 月に設問が「財・サービスの生産に AI を使ったか」から「いずれかの業務機能で使ったか」に変わり、それ以前の数字とはつながらない
- 英国統計局 BICS (英国): 2026 年 9 月時点で、全企業の 30% が AI 技術を 1 つ以上使っていた。従業員 10 人以上に絞ると 38%。この設問が入った 2023 年 9 月は 9% だった
- 総務省 (日本): インターネット調査で、2026 年 1〜2 月に実施。対象は「従業員 10 名以上で、2025 年までにデジタル化の取組を始めた企業」に勤める管理職以上。日本の有効回答は 515 人 (大企業 353・中小企業 162)、米国・ドイツ・中国は各 309 人
最初の 3 つは、会社そのものを母集団にした統計だ。総務省の調査は違う。デジタル化に既に手を付けた会社の、それも全社の方針が分かる立場の人に聞いている。86.4% は「日本企業の 86% が生成 AI を使っている」という意味ではなく、動き始めた会社の中で、生成 AI が業務のどこかに入った割合として読むのが正確だ。
この区別は、数字の大小より重い。EU・米国の 2 割と英国の 3 割は「すべての会社のうち使っている会社」、日本の 86% は「動き始めた会社のうち使っている会社」。並べて「日本が上回った」と読むのも、「日本が遅れている」と読むのも、どちらも物差しを取り違えている。
どの統計でも、差は会社の大きさで開く
物差しが違っても、4 つの統計がそろって示すことがある。大きい会社ほど使っている。
- EU: 従業員 10〜49 人の小企業は 17.00%、50〜249 人の中企業は 30.36%、250 人以上の大企業は 55.03%。大企業は小企業の 3 倍を超える
- 米国: 250 人以上は 37%、100〜249 人は 32%。4 人以下の会社は 20% を下回る。2025 年 12 月から 2026 年 5 月にかけて、20 人以上の会社では利用が増えたが、20 人未満では統計的に意味のある変化がなかった
- 英国: 10 人未満は 29%、10 人以上は 38%
- 日本: 生成 AI を「積極的に活用する」または「領域を限定して利用する」方針の会社は、大企業 74.0%、中小企業 58.1%
米国の数字は、この差が開きつつあることを示している。大きい会社が先に進み、小さい会社が足踏みしている半年間だった。
日本の中小企業には逆の動きもある。活用方針のある中小企業は、前年度の調査の 34.3% から 58.1% へ、1 年で 23.8 ポイント増えた。大企業の伸び (55.7% → 74.0%、18.3 ポイント) を上回る。方針を決めるところまでは、中小企業が急速に追いついている。
「日本は遅れている」を表で点検する
総務省の調査は 4 か国に同じ質問をしているので、国どうしは比べられる。2 つの調査年を並べるとこうなる。
| 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 | |
|---|---|---|---|---|
| 生成 AI の活用方針あり (2025 年度) | 68.9% | 82.8% | 82.2% | 95.4% |
| 同 (2024 年度) | 49.7% | 84.8% | 76.4% | 92.8% |
| 何らかの業務で生成 AI を利用 (2025 年度) | 86.4% | 90.9% | 91.6% | 98.1% |
| 同 (2024 年度) | 55.2% | 90.6% | 90.3% | 95.8% |
利用の差は 1 年で大きく縮んだ。日本は 55.2% から 86.4% へ上がり、米国・ドイツとの差は 5 ポイント前後になった。1 か国 300〜500 人の調査なので、この程度の差を強く読むことはできない。利用の有無で見る限り、日本の遅れはほぼ消えている。
差がはっきり残るのは、組織としての使い方だ。
| 生成 AI による業務変革の取組 (2025 年度) | 日本 | 米国 | ドイツ | 中国 |
|---|---|---|---|---|
| 全社横断的に事業変革に取り組んでいる | 21.5% | 35.6% | 20.7% | 40.9% |
| 組織的な取組はない | 27.0% | 1.4% | 4.9% | 2.6% |
米国・ドイツ・中国では、組織的な取組が無い会社はほとんど無い。日本では 4 社に 1 社を超える。日本の中だけで見ると、大企業の 18.1% に対し、中小企業では 45.6% にのぼる。
全社で事業を作り変える段階では、ドイツは 20.7% と日本 (21.5%) とほぼ同じ水準にある。ドイツは部署単位の業務改善 (48.1%) と個人の生産性向上 (26.0%) で厚く、日本はその手前の「取組なし」が厚い。日本の遅れが表れているのは、一人ひとりが便利に使う段階から組織の仕組みに移っていない会社の多さだ。
白書は環境整備の差も指摘している。米国・ドイツ・中国では「生成 AI に社内データを学習させたり、参照できるデータベースを作ったりしている」と答えた割合が 5 割を超え、日本を大きく上回った。社内の文書や記録を AI が読める形にしているかどうかが、個人の道具と組織の仕組みを分けている。
何に使っているか: 文章と営業
使い道は、どの統計でも文章と営業に寄っている。
EU で最も多い AI 技術は文章の解析 (11.8%) で、画像・動画・音声の生成 (9.5%)、文章や音声の生成 (8.8%) が続く。AI を使う企業の目的では、マーケティングや営業が 34.70%、経営・管理業務が 31.05% を占める。
日本では、白書の本文によれば「議事録・メール作成補助」での活用が約 7 割と最も多く、「営業・販売」が約 6 割、「社内ヘルプデスク」が約 5 割で続く。効果を実感しているという回答も「議事録・メール作成補助」が約 7 割と突出していた。米国や中国では「研究・商品開発」での活用と効果の実感が比較的高い。
米国の業種別では、情報業が 39.7%、金融・保険業が 33.9% と高く、小売業は約 14% にとどまる (いずれも 2026 年 5 月 3 日までの期間)。上位の 2 業種は、どちらもデータと文書を扱う比重が大きい。
使わない理由は知識とルール
EU の統計は、AI の利用を検討したが使っていない企業に、その理由も聞いている。最も多いのは専門知識の不足 (70.89%) で、法的な扱いの不明確さ (52.52%)、データ保護やプライバシーへの懸念 (48.83%) が続く。「自社には役に立たない」は 20.68% と最も少なかった。
日本の白書でも、生成 AI について懸念されるリスクの首位は「社内情報の漏洩などのセキュリティリスク」で、対策としては「全社的な指針やガイドラインを整備している」が 41.1% と最も多かった。
使わない会社の多くは、AI に価値が無いと判断したわけではない。止まっている理由は、扱える人がいないことと、扱ってよい範囲が決まっていないことにある。どちらも道具の性能が上がるだけでは解けず、会社の中の人とルールの側で解く種類の壁だ。
中小企業については、白書にもう一つ手がかりがある。業務変革の戦略や方針について、日本の中小企業で最も多かった回答は「経営幹部から各部署に対して実施事項や達成目標が提示されている」だった。白書はこれを、中小企業の AI 活用ではトップダウンの関与が鍵になっていると読んでいる。
先行指標として読む: 次の 1 年で動く数字
今の数字から、次に動く場所が 3 つ見える。
1 つ目は、米国の「6 か月以内に使う見込み」だ。2025 年 12 月から 2026 年 5 月まで、見込みは 20〜23% で、実際の利用 (17〜20%) を数ポイント上回り続けた。見込みが実績の上にある間は、利用率はまだ伸びる余地を持つ。
2 つ目は、EU の伸び方だ。2024 年から 2025 年の 1 年で 6.5 ポイント増えた。同じ幅で伸びれば、2026 年の数字は 4 社に 1 社を超える。そうなれば、EU で AI を使う会社の割合は 2021 年 (7.7%) の 3 倍を超える。
3 つ目は、日本の「方針」と「組織」の差だ。活用方針は 1 年で 49.7% から 68.9% に上がったが、組織的な取組が無い会社はなお 27.0%、中小企業では 45.6% ある。方針を決めた会社が、次に部署や全社の仕組みへ進むかどうか。日本の次の 1 年で最も大きく動きうるのはここだ。
金融市場の側から見ても、この差は小さくない。AI への巨額の投資を回収する売上の源は、使う側の会社の支出だ。使う側の会社で AI が個人の道具から組織の仕組みへ移るかどうかは、作る側の売上が続くかどうかの先行指標になる。
次に見るもの
- Eurostat の 2026 年版: 「Use of artificial intelligence in enterprises」は 2026 年 12 月に更新予定。20.0% が 4 社に 1 社を超えるか、小企業の 17% がどこまで動くか
- 米国勢調査局 BTOS の AI 補足調査: 15 の業務機能 (財務・人事・顧客対応・マーケティング・IT・研究開発など) ごとの利用が分かる。BTOS のデータページで、20 人未満の会社の利用率が動き始めるかを見る
- 総務省の次の情報通信白書: 日本で「組織的な取組はない」27.0% (中小企業 45.6%) がどこまで下がるか
2 割と 86% のどちらが正しいかを問う必要はない。どちらの数字の中にも、会社の大きさによる差と、個人の道具から組織の仕組みへ移る手前の段差が映っている。次の 1 年は、その段差が埋まるかどうかを見る 1 年になる。
ことば
- BTOS — 米国勢調査局が 2 週間ごとに公表する企業調査 (Business Trends and Outlook Survey)。AI の利用を継続して聞く数少ない公的統計で、2025 年 11 月に設問が「いずれかの業務機能」へ広がった
- Eurostat の ICT 利用調査 — EU 加盟国の統計局が行う、企業の IT・電子商取引の利用調査。従業員 10 人以上の企業が対象で、加盟国どうしを同じ物差しで比べられる
- 組織的な取組 — 総務省の調査で、生成 AI を個人任せにせず、全社・部署・個人業務の単位で会社として活用を進めているかを聞いた項目。日本は「取組なし」が 27.0% と 4 か国で最も多い
🔗 一次ソース
Eurostat:20% of EU enterprises use AI technologies (2025 年 12 月 11 日・20.0%、前年 13.5%、2021 年 7.7%・2023 年 8.1%、用途別 11.8% / 9.5% / 8.8% を確認)ec.europa.eu
Eurostat Statistics Explained:Use of artificial intelligence in enterprises (規模別 17.00% / 30.36% / 55.03%、目的別 34.70% / 31.05%、使わない理由 70.89% / 52.52% / 48.83% / 20.68%・次回更新 2026 年 12 月を確認)ec.europa.eu
米国勢調査局:Large Firms With at Least 20 Employees Biggest AI Users (2026 年 5 月 26 日・17〜20%、見込み 20〜23%、規模別・業種別、2025 年 11 月の設問変更を確認)Census.gov
米国勢調査局:Business Trends and Outlook Survey のデータページCensus.gov- 英国統計局:Business insights and impact on the UK economy (2026 年 10 月 8 日・2026 年 9 月の AI 利用 30%、10 人以上 38%、10 人未満 29% を確認)ons.gov.uk
総務省:令和 8 年版情報通信白書の公表 (2026 年 7 月 24 日)総務省- 総務省 令和 8 年版情報通信白書:生成 AI の活用方針等 (図表Ⅰ-2-1-1・Ⅰ-2-1-2 の CSV で国別・規模別の値を確認)soumu.go.jp
- 総務省 令和 8 年版情報通信白書:組織的な取組状況 (図表Ⅰ-2-1-3 の CSV で国別・規模別の値を確認)soumu.go.jp
- 総務省 令和 8 年版情報通信白書:生成 AI の業務利用状況 (図表Ⅰ-2-1-6 の CSV で 86.4% と前年度 55.2% を確認)
- 総務省 令和 8 年版情報通信白書:懸念されるリスクとリスク対策 (指針・ガイドライン 41.1%)
- 総務省 令和 8 年版情報通信白書:付注 (企業向け調査の対象・期間・有効回答数)