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Deep Dive

🔬 Deep Dive|AI 標的選定をめぐる映画「NAZA」の証言とイスラエル軍の反論

ガザでの AI を使った標的選定を 24 人の匿名の証言で描いた映画「NAZA」と、イスラエル軍・首相の反論。日本公開と11月の国連の自律型兵器の会議を前に、双方の主張と論点を整理する。

LiveMakers Editorial Desk

🔬 Deep Dive|AI 標的選定をめぐる映画「NAZA」の証言とイスラエル軍の反論

ガザでのイスラエル軍による AI を使った標的の選び方を、24 人の匿名の兵士と情報機関の関係者の証言で描いた記録映画「NAZA」が、9 月のヴェネチア国際映画祭で審査員特別賞を受けた。英紙 Guardian が製作し、イスラエル人の Yuval Abraham 氏と Rachel Szor 氏が監督した。

Guardian: NAZA - a new film directed by Yuval Abraham and Rachel Szor (8月24日/製作発表・ヴェネチアのコンペ部門で唯一の記録映画・9月10日初上映・題名の意味・2023〜25年の報道の上に立つ)the Guardian

イスラエル軍は映画を「操作的な歪曲」にもとづくと反論し、ネタニヤフ首相は証言した人物を特定して訴追するよう求めた。政府の機関は、映画に反論する別の作品の製作者を表彰した。米国では10月に劇場公開が広がり、日本でも10月24日に東京で公開が始まる。11月下旬には Guardian のサイトで無料の配信が予定されている。

この記事は、映画の主張とイスラエル側の反論のどちらが正しいかを判定しない。映画の証言者は匿名で、その内容を外部から独自に検証することはできない。イスラエル軍もこの点を含めて映画を批判している。そのうえで、AI が戦場の判断にどこまで入り、その判断に誰が責任を負うのかという問いを、映画と反論の両方が世界の前に出した経緯を整理する。11月にはジュネーブで、自律型の兵器の規律を議論する国際会議も控えている。

映画が描いたもの — 証言の形式と、AI が標的の推薦にどう使われたとされるか

Guardian によると、映画はテルアビブの屋上で夜に撮影した、イスラエルの情報機関と軍の関係者 24 人へのインタビューで構成される。話すこと自体に危険が伴うため、取材は匿名を条件とし、出演者の顔と声はデジタル処理で変えてある。題名の「NAZA」は、空爆で死亡すると見込まれる民間人の数を指す、イスラエルの情報機関の略語だと Guardian は説明している。

Guardian が伝える映画の中身によれば、証言者たちは、下位のハマスの戦闘員と見なした人物を大量に洗い出すための AI を使ったシステムについて語っている。標的とされた人物は夜に自宅で爆撃され、その家族も死亡することを承知のうえだった、と証言者は述べている。携帯電話に侵入して居場所を割り出したこと、住民の最大 25% がまだ自宅にいると軍が見積もっていた地区の破壊、食料の配布所での民間人の死亡についての証言も含まれる、と Guardian は書く。

監督の 2 人は、映画の焦点は「一部の兵士による散発的な戦争犯罪」ではなく、命令や方針、受け入れられた慣行そのものにあると述べている。Abraham 氏はヴェネチアの記者会見で、証言者の中には後悔を語る人も、そうでない人もいたと話した。

先行報道からの系譜 — 2023〜25 年の調査報道と、今回の映画の位置づけ

映画は、ゼロから始まった調査ではない。Guardian は、映画が 2023 年から2025年にかけてイスラエルとパレスチナの合同媒体 +972 Magazine、ヘブライ語の媒体 Local Call、Guardian が報じた内容の上に立っていると説明している。

  • 2023年11月: +972 Magazine と Local Call が、建物や構造物を標的として推薦する AI システム「Gospel」を報じた
  • 2024年4月3日: 同じ 2 媒体が、Abraham 氏の署名記事で、人物を標的候補として洗い出す「Lavender」と、標的が自宅に入ったことを知らせる追跡システム「Where's Daddy?」を報じた。記事は 6 人の情報機関の関係者の証言として、Lavender が約 3 万 7,000 人を戦闘員の疑いがあると判定し、1 人あたりの人による確認は 20 秒ほどだったと伝えた。イスラエル軍の報道官は当時、AI は補助の道具にすぎず、そうした殺害の名簿は存在しないと否定している
  • 2025年8月6日: Guardian が、イスラエル軍の情報部隊が Microsoft のクラウド Azure にガザとヨルダン川西岸の住民の通話の記録を保存していたと報じた

AP 通信によると、この一連の報道は、2023 年から2025年にかけての 100 人を超える匿名の情報源への取材にもとづく。映画の中でこれらのシステムの名前がどこまで呼ばれているかは、本稿では確認できていない。映画の位置づけは、記事として出てきた個々のシステムの話を、24 人の顔の見えない証言でつなぎ、仕組みの全体として見せる試みにある。

イスラエル側の反論 — 軍の詳細な反論・首相の要求・対抗する映画

イスラエル側の反応は、軍、首相、政府の広報機関の 3 方向から出ている。

軍。 イスラエルの大手紙 ynet によると、イスラエル軍は10月初めに詳しい反論を出した。映画が描く標的選定の過程は「歪曲され、誤解を招く」もので、重大な事実の誤りにもとづき、インタビューの編集が「操作的」だとする。軍は、AI が独自に攻撃の標的を選んだことは一度もなく、標的を特定するのは権限を持つ情報将校、攻撃を決めるのは作戦の指揮官だと説明した。Lavender については、攻撃を承認された標的の名簿ではなく、情報分析官を助けるデータベースだとしている。民間人 500 人の死亡を見込んだ攻撃を計画、承認、実行したことはないとも述べた。証言者については、多くが情報の初期の段階しか知らず、攻撃の計画と承認の全体を見ていないとし、根拠のない推測を語っている例があると批判した。軍は、製作者が上映より先に主張を示して反論を求めることをしなかったとも述べている。

首相。 Times of Israel によると、ネタニヤフ首相は10月11日、司法長官、軍の参謀総長、国内の治安機関シン・ベトの長官に書簡を送り、映画を「虚偽で偏った中傷」と呼んだ。出演者全員の身元を急いで特定し、情報保全の違反や名誉毀損などの罪で捜査と訴追をするよう求めた。これは首相の要求で、本稿の執筆時点で起訴が行われたとの報道は確認できていない。Guardian によると、首相はこれより前に、兵士を中傷した人物から市民権を剥奪できる法律を目指すと述べている。

対抗する映画。 Jerusalem Post によると、兵士の証言で映画の主張に反論する作品「NAZA: The Real Story」が英語字幕付きで公開され、政府の国家広報局を率いる Tzipi Hotovely 氏が10月8日、その製作者に感謝状を贈った。首相府がこれを発表している。

批判は政府の外からも出ている。メディア監視団体 CAMERA UK の Adam Levick 氏は、ユダヤ系の媒体 JNS の論評で、映画を「疑似的な調査報道」と呼び、題名と構成がホロコーストとの比較を誘う作りだと批判した。

一方で、映画の側を支える声もある。Guardian によると、イスラエルの人権団体 43 団体が、製作者と情報源を訴追しないよう当局に求める共同声明を出し、イスラエルの映画人 1,500 人超が表現の自由を守る署名に加わった。製作総指揮の Jonathan Glazer 氏は、10月中旬にロンドンで開かれた英国での初上映の場で、イスラエル政府の反応は予想していたよりはるかに卑劣なものだったと語った。

公開が広がる道筋 — 映画祭から米国公開、無料配信へ。国内の上映はどうなっているか

映画は、映画祭から劇場、そして無料の配信へと、段階を追って観客を広げる計画で動いている。

  • 9月10日: ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門で初上映。部門で唯一の長編の記録映画だった。Guardian が伝える Variety の報道では、上映後の拍手は約 25 分続いた。のちに審査員特別賞を受けた
  • 9月下旬: スペインのサン・セバスティアン国際映画祭、続いてニューヨーク映画祭で北米の初上映
  • 10月: AP 通信によると、米国では従来型の配給会社を通さずに、ニューヨークの IFC Center で公開された。10月9日からはロサンゼルス、シカゴ、オースティン、シアトルなどに広がった
  • 米国以外: Guardian によると、仏 MK2 Films と組んで英国、オーストラリア、日本、カナダ、ブラジル、フランス、ドイツなど 55 の地域で劇場公開する
  • 11月下旬: Guardian のサイトで無料配信。日付はまだ示されていない

日本では、配給会社トランスフォーマーが権利を取り、10月24日から東京のシアター・イメージフォーラムなどで「NAZA ナザ」として公開する (オリコンニュースの報道)。

イスラエル国内の上映は、まだ決まっていない。Times of Israel は10月11日時点で、映画はイスラエルでは上映されていないと伝えている。Guardian によると、イスラエルの複数の配給会社と映画館に作品を提供したが、上映先は明らかになっていない。プロデューサーの James Wilson 氏は、イスラエル政府の反発は国内のだれも映画を見ないうちに起きたと指摘している。

AI と戦争の規律 — 米テック企業の対応と、11 月の国際会議で問われること

映画とその前の報道は、軍だけでなく、軍に技術を提供する企業にも問いを向けている。

Microsoft は2025年9月25日、Brad Smith 副会長兼社長の名前で、イスラエル国防省の中の 1 つの部隊に提供していたクラウドの保存容量と AI のサービスの一部を停止したと公表した。きっかけは同年8月6日の Guardian の報道で、同社の調査は報道の一部を裏づける証拠を見つけたという。Microsoft の標準の利用条件は、民間人の大量監視に技術を使うことを禁じている。一方で、イスラエルとのサイバーセキュリティの協力は続けると説明した。

AI を戦場で使う規律の議論は、国連の枠組みでも節目を迎える。特定通常兵器使用禁止制限条約 (CCW) の第 7 回運用検討会議が、11月16日から20日までジュネーブで開かれる。欧州連合の理事会は10月13日の結論文書で、自律型致死兵器システム (LAWS) を議論してきた政府専門家会合が、規律の文書の要素について合意に達したことを歓迎した。そのうえで、検討会議が文書づくりに向けた野心的な交渉の権限を与えることを期待するとし、武力の行使に関する判断の責任は機械に移せないと強調した。

ここで区別がいる。CCW で議論されるのは、主に人の関与なしに標的を選んで攻撃する兵器だ。映画が描き、イスラエル軍が反論しているのは、AI が標的の候補を推薦し、人が承認するという仕組みで、軍の説明では最終の判断は人にある。だが、先行報道が伝えたように人の確認が 1 件 20 秒ほどだったとすれば、それを人の判断と呼べるのか。この問いは、「人の判断を保つ」という EU の文書の言葉そのものに跳ね返る。完全な自律の兵器を禁じるだけでは、推薦する AI と、それを承認する人の間で起きることは規律の外に残る。

AI を戦場で使う国は、イスラエルに限らない。推薦の速さが判断の速さを決めるようになるほど、人がどこで、どれだけの時間をかけて止められるかが、規律の中身になっていく。映画への評価がどう割れても、この問いは残る。

次に見るもの

確認先は 3 つある。1 つ目は11月16日から20日にジュネーブで開かれる CCW の第 7 回運用検討会議の最終文書で、LAWS について法的な拘束力を持つ文書の交渉の権限が与えられるかどうか。2 つ目はイスラエルの司法長官の判断で、首相が求めた出演者の特定と訴追について、捜査を始めるかどうか。3 つ目は11月下旬の Guardian のサイトでの無料配信の開始日で、劇場に行かない層にまで映画が届く時点になる。

ことば

  • NAZA — 映画の題名で、空爆で死亡が見込まれる民間人の数を指す、イスラエルの情報機関の略語だと製作側は説明している。映画は、この見込みの数が攻撃の判断の中でどう扱われたかを、24 人の証言で描こうとした。
  • Lavender — 2024年4月に +972 Magazine と Local Call が報じた、イスラエル軍の AI を使ったシステム。報道は人物を戦闘員の疑いで判定する仕組みとし、軍は情報分析官を助けるデータベースで攻撃の名簿ではないと説明している。
  • 自律型致死兵器システム (LAWS) — 人が個々に指示しなくても、標的を選んで攻撃できる兵器。国連の特定通常兵器使用禁止制限条約の枠組みで規律の議論が続き、11月の運用検討会議で交渉に進むかが焦点になる。

🔗 一次ソース

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