Signal
📡 Signal|米 FinCEN、自己管理ウォレットとミキサーの規則案 2 本を撤回
FinCEN が 2020 年の自己管理ウォレット規則案と 2023 年のミキサー規則案を撤回。ウォレット案は完全に閉じ、ミキサー案は監視継続を明記した。
米財務省の金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN) は 10 月 6 日付の連邦官報で、暗号資産に関する規則案 2 本を撤回した。2020 年 12 月に出した、自己管理ウォレットとの取引に報告と本人確認を課す案と、2023 年 10 月に出した、国外が関わるミキサー取引に記録と報告を課す案で、どちらも最終規則にならないまま残っていた。
連邦官報 2026-20430: 自己管理ウォレット規則案の撤回 (2026 年 10 月 6 日掲載)Federal Register
撤回されたのは施行前の案で、銀行や送金業者 (MSB) が負う既存の銀行秘密法 (BSA) の義務は何も変わらない。読みどころは 2 本の通知の書き分けにある。ウォレットの案は「これ以上の対応はしない」と閉じ、ミキサーの案は監視を続けると明記して扉を残した。米国の資金洗浄対策が網をかける場所は、ウォレットの種類や取引の手法から、名指しされた組織と認可を受ける発行体へ移りつつある。
撤回された 2 本の中身
2020 年の案 (85 FR 83840) は、銀行と MSB に対し、顧客の取引相手が自己管理ウォレットか、FinCEN が指定する国外の BSA 対象外の事業者のウォレットを使う場合の義務を定めていた。1 万ドル超の取引 (24 時間の合算で 1 万ドル超を含む) は FinCEN に報告し、顧客の本人確認をする。3,000 ドル超の取引は、取引相手の情報を含めて記録を保存する。
2023 年の案 (88 FR 72701) は、愛国者法 311 条にもとづき、国外が関わるミキサー取引を「マネーロンダリング上の主要な懸念」がある取引の類型に指定するものだった。ミキシングの定義は広く、出どころ・行き先・金額を見えにくくする手段として次の 6 つを挙げていた。
- 複数の利用者・ウォレットの資金をまとめる
- プログラムで取引の構造を組み立てる
- 送金を分割し、独立した複数の取引に流す
- 使い捨てのアドレスを経由させる
- 暗号資産どうし、または他のデジタル資産と交換する
- 利用者の指示で送金に遅延を入れる
対象取引を知った、または疑う理由がある金融機関は、金額・通貨の種類・使われたミキサー・顧客のウォレットアドレス・トランザクションハッシュ・IP アドレスなどを報告し、顧客の氏名・生年月日・住所まで記録する建て付けだった。
2 本の通知は、閉じ方が違う
2 本とも撤回の根拠に挙げたのは、2025 年 7 月に大統領のデジタル資産市場作業部会がまとめた報告書だ。ミキサー撤回の通知は、この報告書から「トランプ政権は、合法な利用者が公開ブロックチェーン上で私的に取引できることを支持する」という一節を引いている。報告書は、不正な主体がミキサーで資金を隠す一方、合法な利用者も金融上のプライバシーのためにミキサーを使いうると認め、財務省にミキサーの規則案について次の手を検討するよう求めていた。
ミキサーの通知は、撤回の理由にパブリックコメントの懸念を挙げた。定義が広すぎて正当な取引を萎縮させ、金融機関に大きな報告負担をかけるという指摘だ。そのうえで、不正な主体がいまもミキサーなどを使って捜査を妨げているという認識は維持し、ミキサー関連の動きを引き続き監視し、将来は適切な措置を取りうると書いた。
自己管理ウォレットの通知は短い。デジタル資産の規制を目的に合ったものにする政権の取り組みの一環として撤回し、この案について「これ以上の対応はしない」と書いて終わる。6 年前の案は完全に閉じ、3 年前の案は類型としての指定を取り下げただけで、監視の目は残した。
撤回と並行して進む、名指しの措置と発行体向け規則
FinCEN が資金洗浄の取り締まりで手を緩めたわけではない。撤回通知の前日、10 月 5 日の官報には、ロシアとつながる制裁回避・資金洗浄サービス「A7 ネットワーク」が支配する国外の会社が関わる送金を、米国の金融機関に禁じる特別措置の案が載った。6 月と 7 月には、Huione グループを主要な懸念先と定める案と、その定義の改正案を出している。
もう一方の柱が、GENIUS 法 (2025 年 7 月 18 日成立の米国のステーブルコイン法) のもとで認可を受けるステーブルコイン発行体だ。FinCEN は 4 月 10 日に発行体向けの資金洗浄・テロ資金対策プログラムと制裁対応の規則案を、6 月 22 日に顧客確認プログラムの規則案を出した。
並べると、対象の決め方が入れ替わっている。ウォレットの種類や取引の手法で広く網をかける案を下ろし、名指しした組織と、認可を受けて規制の内側に入る発行体に義務を集める。利用者が自分で鍵を持つことも、取引を見えにくくする技術を使うことも、それだけで報告の引き金にする案は消えた。
次に見るもの
GENIUS 法は、成立から 18 か月後の 2027 年 1 月 18 日と、主たる連邦規制当局が最終規則を出してから 120 日後の、早い方で施行される。今日から最終規則が出ても、その 120 日後は 1 月 18 日を越える。施行日が 1 月 18 日より早まるのは、9 月 20 日までにどこかの当局が最終規則を出していた場合だけだ。
確かめる先は連邦官報の FinCEN の文書一覧だ。4 月 10 日に出した発行体向け資金洗浄対策プログラムの案が、1 月 18 日までに最終規則として載るか。ミキサーについては、監視継続を明記した FinCEN が次に動くとき、類型ではなく特定のサービスを名指しする形を取るかが焦点になる。
ことば
- 自己管理ウォレット (unhosted wallet) — 取引所や銀行が預からず、利用者が秘密鍵を自分で持つウォレット。ウォレット自体には報告義務をかける相手がいないため、2020 年の案は、その取引相手になる銀行や送金業者に義務を負わせる形を取った。
- 愛国者法 311 条 — 財務長官が国外の国・金融機関・取引の類型・口座の種類を「マネーロンダリング上の主要な懸念」と認定し、米国の金融機関に特別措置を課せる条文。2023 年の案は、この 4 つのうち「取引の類型」に当てはめていた。
- FinCEN — 米財務省の部局で、銀行秘密法の運用を担う。金融機関から疑わしい取引の報告を受け、資金洗浄対策の規則を作る立場にある。
🔗 一次ソース
連邦官報 2026-20430: 自己管理ウォレット規則案の撤回 (2026 年 10 月 6 日掲載)Federal Register
連邦官報 2026-20429: ミキサー取引の特別措置案の撤回 (2026 年 10 月 6 日掲載)Federal Register- 大統領デジタル資産市場作業部会 報告書 (2025 年 7 月)whitehouse.gov
連邦官報 2026-20371: A7 ネットワーク関連送金の禁止措置案 (2026 年 10 月 5 日)Federal Register
連邦官報 2026-06963: ステーブルコイン発行体の資金洗浄対策プログラム規則案 (2026 年 4 月 10 日)Federal Register
連邦官報 2026-12460: ステーブルコイン発行体の顧客確認プログラム規則案 (2026 年 6 月 22 日)Federal Register
連邦官報 2026-12794: Huione グループを主要な懸念先と定める案 (2026 年 6 月 25 日)Federal Register- GENIUS 法 本文 (Public Law 119-27・施行日は末尾の条文)govinfo.gov