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📡 Signal|Lightning Labs、UTXO 共有方式 LayerTree の設計を公開
Lightning Labs が、1つの UTXO を約105万人で共有し、1取引でいつでも抜けられる LayerTree の設計を公開。前提のコベナンツはビットコインで未有効化で、数字は設計上の試算。
ビットコインの決済ネットワーク Lightning を開発する Lightning Labs は10月15日 (米国時間)、1つの UTXO (未使用の取引出力) を多数の利用者で共有する方式「LayerTree」の設計を公開した。設計では、深さ20の木で約105万人が1つの出力を共有でき、誰でもいつでも1回の取引で自分の残高を引き出せる。
ただし、ビットコイン本体ではまだ動かない。LayerTree は「コベナンツ」と呼ばれる、資金の使い道をスクリプトで縛る機能を前提にしており、そのためのオペコード (スクリプトの命令) はどれもビットコインで有効化されていない。発表は製品の公開ではなく、ソフトフォーク (互換性を保ったままのルール変更) の議論に向けた設計の提示になる。
「取引の木」ではなく「データの木」
著者は Lightning Labs の CTO、オラオルワ・オスントクン氏 (roasbeef) の単著で、論文は10月15日付の草稿だ。仕組みの要点は次のとおり。
- 誰がいくら持つかは、ブロックチェーンの外にある「Merkle-sum 木」に記録する。木の葉が1人分の残高で、上の各ノードは子2つのハッシュと金額の合計を持つ
- チェーン上の共有出力は、木の頂点 (root) だけを約束する
- 出力を使うたびに、コベナンツが「証明を root と照合する → ルールを1つ適用する → 新しい root で同じ出力を作り直す」ことを強制する
- 抜けるときは、自分の葉と各段の兄弟ノードを証明として出す。時間ロックも事前署名の取引もいらない
これまでの共有方式 (チャネルファクトリー、Ark、timeout trees など) は、論文の整理では「取引の木」だった。一人で一方的に抜けるには、根から自分の葉までの取引を順に公開する必要があり、木が深いほど取引の数が増える。LayerTree は木をデータとしてチェーンの外に置くので、抜けるのは常に1取引で済む。
数字で見る違い
公式サイトの比較 (深さ16、約6万5,000人分の枠) では、一人で抜けるときのデータ量と取引数は次のとおり。
- LayerTree (推奨構成): 約1,020 vB・1取引
- 同じ規模の「取引の木」(Ark 型): 2,511 vB・17取引、使えるまで約2.7時間と葉のタイムロック
- Lightning の強制クローズ: 530 vB・3取引、約1日
1,000人程度でまとめて加入すれば、1人あたりのデータ量は1 vB 未満になるという。一方で、一人で抜けるときのコストは、普通に自分だけの UTXO を使う場合 (111 vB) より常に大きい。サイト自身がそう明記している。共有で得をするのは、多数が出入りする場面だ。
「100万人」は設計上の試算
「1つの UTXO を100万人で共有」という発表の言葉は、試算であって稼働の実績ではない。数字の出どころは二つある。推奨構成で深さ20 (約105万人) にした場合に、抜けるのに約1,150 vB かかるという計算と、まだ誰も提案していない専用オペコードを仮定したシミュレーションだ。後者では1,048,576人で581 vB になる。
前提にする機能も複数の組み合わせが用意されている。推奨構成は、無効化されたスクリプト機能の復活を提案する BIP-441・440 に、OP_TX、OP_CHECKSIGFROMSTACK (BIP-348)、楕円曲線の演算命令を組み合わせる。OP_CAT と OP_TWEAKADD (BIP-449) だけで動く最小構成もある。CTV (BIP-119) は使わない。BIP の一覧では、BIP-119・348・443・441 はいずれも草案の段階で、BIP-347 (OP_CAT) は仕様の完成を示す「Complete」だが、有効化はされていない。
実装は、候補のオペコードを有効にしたシミュレーター上で動く Python の参照実装と Go の実装、Lean 4 による形式検証で、テストは3,019件ある。signet などの試験ネットワークで動かしたという記述は見当たらない。
ビットコインの拡張をめぐる位置
1つの UTXO を多数で使う発想は、取引手数料が上がる局面でビットコインを自分で持つ人を増やすための議論の中心にある。Ethereum がロールアップ (L2) に処理を逃がしてきたのに対し、ビットコインではベースのルールを小さく変えて共有出力を作る道が、Ark などの方式とともに競っている。LayerTree の設計が投げかけるのは、どのコベナンツを有効化するかという問いに、「抜けるのは1取引」という具体的な性能の物差しを持ち込むことだ。
公式サイトは限界も挙げている。加入は運営者の承認制で保証されない、全員が同じ出力を通るので連鎖する未承認取引が約25件で頭打ちになる、退去が安い分だけ嫌がらせにも使える。オフラインのまま受け取れる仕組みはあるが、抜けるときは本人がオンラインか、見張り役のウォッチタワーに任せておく必要がある。
次に見るもの
確認できる次の一点は、ビットコインの開発者の議論の場 (Delving Bitcoin と bitcoin-dev メーリングリスト) に LayerTree の提案が投稿されるかどうかと、GitHub の bitcoin/bips でコベナンツ関連の BIP の状態が草案から動くかだ。執筆時点で、Delving Bitcoin の検索では LayerTree の投稿は見当たらない。
ことば
- UTXO (未使用の取引出力) — ビットコインの残高の単位。一つ一つが「誰がどの条件で使えるか」を持つ。共有方式は、この1つを多数の人の残高の入れ物にする。
- コベナンツ — 資金を使うときに、送り先や次の出力の形までスクリプトで縛る機能。ビットコインでは現在使えず、どの方式を有効化するかが議論になっている。
🔗 一次ソース
- Lightning Labs 公式 X の告知 (2026年10月15日)
- LayerTree 公式解説サイトlayertree.tech
- LayerTree 論文 PDF (短縮版・2026年10月15日付の草稿)layertree.tech
- 必要なオペコードの構成 (「どれも今日のビットコインでは動かない」と明記)layertree.tech
- 規模とコストの比較 (深さ16・約1,020 vB/2,511 vB/530 vB)layertree.tech
- 設計の解説 CONCEPTS.md (深さ20・約1,150 vB)layertree.tech
GitHub lightninglabs/layertree (参照実装・形式検証)GitHub
BIP-119 (CTV)GitHub
BIP-348 (OP_CHECKSIGFROMSTACK)GitHub
- BIP-347 (OP_CAT)