Signal
📡 Signal|エスパー元米国防長官がCLARITY Actを「安全保障法案」と呼び直した——根拠は条文にあり、票を止めているのも同じ条文だ
元米国防長官がCLARITY Actを「国家安全保障法案でもある」と呼び直したと複数報道が伝えた。その呼び方には条文の裏づけがある。だが、彼が最も鋭い武器と呼んだ不正金融条項こそ、上院で決着していない争点でもある。
元米国防長官のマーク・エスパー氏が、上院に係属中のCLARITY Actを「単なる金融サービス法案ではない。国家安全保障法案でもある」と呼び直した——複数報道がそう伝えている。討論終結動議が提出され、9月15日という日付が上院の日程に載った直後のことだ。
Cointelegraph(エスパー氏の発言内容、Financial Timesへの寄稿である旨、Coinbaseグローバル諮問委員会の委員である旨を確認)Cointelegraph
法案をめぐる議論の軸が動いている。これまでCLARITY Actの争点は、SECとCFTCのどちらが何を監督するかという管轄の配分だった。安全保障の枠で読み直すと、争点はドルの基軸性と制裁の実効性になる。重要なのは、この呼び直しが単なる修辞ではないことだ。法案の条文には、実際に財務省の不正金融対応の権限が書き込まれている。ただし——票を止めているのも、その条文である。
何が確認できて、何が確認できないか
先に出典の状態を示す。エスパー氏の寄稿そのものは有料媒体にあり、本稿の執筆時点で公式一次ソース未確認である。以下は複数報道に基づく。
Cointelegraphは、エスパー氏がFinancial Timesへの寄稿で、中国が米国の監督を迂回しドルの中心的な役割を侵食するために国家主導の決済システムへ投資を進めていると述べた、と報じた。同記事が引く発言は三つある。中国が我々の世代における最大の戦略的脅威であると長く主張してきた、というもの。同法はUSA PATRIOT法第311条に基づく財務省の強力な特別措置権限を拡張するものであり、それはならず者に対する最も鋭い武器のひとつだ、というもの。そして、いま上院にあるClarity Actは単なる金融サービス法案ではなく国家安全保障法案でもあり、そう理解されたうえで緊急に可決されるべきだ、というものである。北朝鮮のLazarus Groupのような主体が米国の金融統制を回避するのに使う抜け道を塞ぐ道具になる、という論も併せて伝えられている。
同趣旨の発言は8月3日時点でも報じられていた。ABAB Newsは、エスパー氏がCLARITY Actを「国家安全保障上の急務」と呼び、米国のフィンテックにおける優位が危うくなっていると述べたと伝えている。安全保障の枠組みは、この週末に生まれた言い回しではない。
もうひとつ、報道に併記されている事実がある。エスパー氏は暗号資産取引所Coinbaseのグローバル諮問委員会の委員である。2023年11月に、安全保障分野の他の実務家とともに加わった。
「安全保障法案」という呼び方には、条文の裏づけがある
呼び直しが比喩でないことは、法案の解説から確認できる。ブロックチェーン分析企業TRM Labsの整理によれば、CLARITY Actは不正金融対策における財務省の役割を保持しており、不正金融リスクが関わる事案では、財務省がUSA PATRIOT法第311条に基づく追加要件や地理的ターゲティング命令などの権限を課しうる。第403条は、銀行秘密法上の義務——AMLプログラム、従業員研修、記録保持、疑わしい取引の報告——が登録事業者すべてについて変わらないことを確認している。FinCENの管轄も維持され、市場規制当局とのAML監督・情報共有の調整が想定されている。
第311条は、財務省が外国の法域・金融機関・取引類型・口座類型を「主要なマネーロンダリング懸念」と認定したうえで、米国の金融機関に特別措置を課すための権限として知られる。最も重い措置は、対象となる外国金融機関のコルレス口座を米国の金融機関が開設・維持することの禁止に及ぶ。この権限がデジタル資産の領域にどこまで及ぶかは、法案の実務上の射程を大きく変える論点だ。
つまり「安全保障法案でもある」という記述は、条文の内容として成り立つ。ただし、条文にその機能があることと、だから可決すべきだということは別の命題である。前者は確認でき、後者は主張だ。
武器と呼ばれた条項が、票を止めている
ここに構図の捩れがある。
8月8日、スーン上院院内総務は法案の審議入りを求める討論終結動議を提出した。9月の会期再開後に予定される手続き投票には60票が必要で、少なくとも10人程度の民主党議員の賛成が要るとみられている。そして交渉が決着していない争点として挙がっているのは、政府高官の倫理規定、ステーブルコインの利回り、そして不正金融の保護と法執行に関する条項である。
エスパー氏が最も鋭い武器と呼んだ領域は、上院が合意できていない領域と重なっている。安全保障のフレームは、法案を通すべき理由を強くするかもしれない。だが、その内側で何をどこまで書くかという対立を解消するものではない。むしろ争点が安全保障へ移ることで、条文の細部——第311条の適用範囲、自己保管への波及、開発者の扱い——をめぐる合意形成の難度は上がりうる。
議事日程の側も緩んでいない。9月30日には連邦政府の会計年度が切れ、つなぎ予算の処理が控える。国防授権法案もある。
争点が移ると、反対の意味も変わる
市場構造法案としてのCLARITY Actであれば、反対や修正要求は「配分の設計が悪い」という主張だった。国家安全保障法案として読まれるなら、遅延そのものがコストとして計上される。同じ反対が、別の重さで受け取られることになる。
これは推進側にとって強力なフレームだ。同時に、安全保障を根拠にした立法が条文の精査を急がせる方向に働きうることも、暗号資産に限らず繰り返し観測されてきた。どちらの効果が出るかは、9月の審議で誰がこのフレームを使い、誰が使わないかに表れる。
【次に見るもの】
・手続き投票までに、不正金融の保護と法執行に関する条文で合意が出るか。安全保障のフレームが実際に票を動かすなら、まずここに現れる
・上院の審議で安全保障の枠組みが正式に採用されるか。公聴会の証人構成や、安全保障畑の議員の関与の度合いに表れる
・第311条の適用範囲がどう書かれるか。自己保管や開発者への波及をめぐる懸念は、この条文の広さで決まる
・9月30日の会計年度末を挟む議事日程のなかで、法案が実際に議場の時間を確保できるか
🔗 一次ソース
Cointelegraph(エスパー氏の発言内容、Financial Timesへの寄稿である旨、Coinbaseグローバル諮問委員会の委員である旨を確認)CointelegraphABAB News(8月3日時点で同趣旨の「国家安全保障上の急務」発言が報じられていたことを確認)ababnews.com
- CoinDesk(8月8日の討論終結動議の提出、60票の要件、未決着の争点として倫理規定・不正金融と法執行・ステーブルコイン利回りが残ることを確認)coindesk.com
TRM Labs(CLARITY Actが不正金融対策における財務省の役割を保持し、第311条に基づく追加要件を課しうること、第403条の銀行秘密法義務、FinCENの管轄維持を確認)trmlabs.com- Coinbase(エスパー氏を含む安全保障分野の4名がグローバル諮問委員会に加わったことを発表した2023年11月の公式リリース)coinbase.com