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📡 Signal|Blockstream、耐量子署名を市販ウォレットで最短約3秒と実測
Blockstream の研究チームが市販のハードウェアウォレット4機種で耐量子署名の速さを実測した。署名を1,092バイトに広げた方式なら3〜8秒、324バイトの方式は22〜42秒かかる。

Blockstream の研究チームは10月29日、公式 X で、量子コンピュータに耐える署名 (耐量子署名) を市販のハードウェアウォレットで約3秒で作れたと紹介した。元になったのは8月19日に公開した研究で、Jade、Trezor、Ledger、BitBox の4社の端末で、ハッシュ関数だけを土台にする5種類の署名方式の速さを測っている。
「いまのハードウェアウォレットでは耐量子署名は重すぎる」という見方に、実機の数字で答えた研究だ。鍵の移し替えには端末の側の準備が要る。その端末の側の問題が、実現できるかどうかから、どこまで速く・小さくできるかという工学の問題へ移ったことを示している。31日には Ethereum の公式アカウントも、ケンブリッジで専門家が集まり暗号の耐量子化の研究を調整したと発信した。
3秒と20秒は、別の方式の数字
10月29日の投稿は「20秒超から約3秒へ」と書くが、研究の表を読むと、同じ方式を速くしたのではなく、署名の大きさと速さを取り替えた結果だと分かる。Blockstream の Jade Plus での1回の署名にかかる時間 (100回の平均) は次のとおり。
- SHRINCS-B の状態つきの部分 (署名324バイト) — 21.75秒。4機種では22〜42秒
- SHRINCS-L の状態つきの部分 (署名1,092バイト・オーバーグラインディングなし) — 3.31秒。Trezor で3.01秒、Ledger で8.04秒、BitBox02 Nova で5.5秒
- 同じ SHRINCS-L でオーバーグラインディングあり — 225.63秒
- 米国の標準規格 SLH-DSA (署名7,856バイト) — 52.85秒。4機種では約53〜120秒
署名を3倍強の1,092バイトに許せば、署名は数秒で終わる。ブロックチェーンでは署名が大きいほど手数料と保存の負担が増えるので、端末の待ち時間とチェーンの重さのどちらを取るかの選択になる。研究はオーバーグラインディングについて、署名に時間をかける代わりに検証を軽くする取引だと説明している。
「できる」と「使える」のあいだ
研究の結論は明快で、既存のハードウェアウォレットが耐量子署名を作れないという懸念は、少なくともハッシュ関数ベースの方式については当たらないとしている。残るのは最適化、待ち時間、キャッシュ、ハッシュ計算の高速化といった工学の課題だという。
一方で、研究が線を引いている範囲もはっきりしている。
- 測ったのは端末の上で署名を作る部分だけ。耐量子のファームウェアの検証や、格子暗号など別の系統の方式は対象外
- 計測は各社の開発者向け・独自のファームウェアの上で行った。利用者に配られている製品の機能ではない
- SHRINCS の仕様そのものは、研究の公開時点で未発表
ビットコインのチェーンでこの署名を使うには、ネットワークの規則の変更が別に要る。Blockstream は SHRINCS の署名を検証する仕組みを、自社が開発したサイドチェーン Liquid の上ではすでに動かしている。
イーサリアムも同じ系統の署名へ
Ethereum の側でも、耐量子化の中心にハッシュ関数ベースの署名がある。ethereum.org のロードマップは、バリデータの署名をハッシュ関数ベースの方式 (leanXMSS) へ切り替える計画を掲げ、10月9〜12日に英ケンブリッジで2回目の耐量子研究の合宿を予定していた。Ethereum の公式 X が31日に伝えたのは、この集まりとみられる。
ビットコインは利用者のウォレットの署名、イーサリアムはまずバリデータの署名と、手をつける場所は違う。それでも両者は、量子コンピュータで破られうる楕円曲線の署名を、ハッシュ関数だけを頼る署名に置き換えるという同じ方向を向いている。
次に見るもの
- Blockstream Research の SHRINCS の仕様の公開と、Delving Bitcoin での議論 — 方式の確定が、端末メーカーが製品に載せるかどうかの前提になる
- Jade、Trezor、Ledger、BitBox の各社の発表 — 研究は、各社なら自社の端末でより良い結果を出せるかもしれないとし、上回る数字があれば共有したいとしている。製品のファームウェアに耐量子署名が入るかが、実用への最初の一歩になる
ことば
- 耐量子署名 — 量子コンピュータでも破れないとされる電子署名。ビットコインやイーサリアムがいま使う楕円曲線の署名は、十分に大きな量子コンピュータで解かれるおそれがある。
- SHRINCS — Blockstream Research が提案する、ハッシュ関数ベースの署名方式。何回署名したかを覚えておく「状態つき」の部分と、覚えなくてよい部分を組み合わせ、署名を小さく保つ。
- オーバーグラインディング — 署名を作るときに条件を満たすまで計算を繰り返し、検証する側の手間を減らす工夫。端末の署名時間は大きく伸びる。
🔗 一次ソース
Blockstream Research「Are Hardware Wallets Ready to Produce Post-Quantum Signatures?」(2026年8月19日・4機種の計測表)Blockstream- Blockstream 公式 X の告知 (2026年10月29日)
- Ethereum 公式 X の投稿 (2026年10月31日・ケンブリッジでの耐量子研究)
ethereum.org ロードマップ「耐量子」(2回目の耐量子研究合宿・2026年10月9〜12日・ケンブリッジ)ethereum.orgSHRINCS の C 実装 (Blockstream Research・GitHub)GitHub