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📡 Signal|米司法省、イラン原油収益とする暗号資産6,100万ドルの没収を提訴
米ニューヨーク南部地区連邦検事局が、イラン産原油の闇取引の収益だとする約6,119万USDTの民事没収訴訟を起こした。香港の2社がバイナンスの口座を窓口にした経路と、テザーの凍結・焼却・再発行による差押えの仕組みを読む。
米ニューヨーク南部地区連邦検事局は 9 月 14 日、イラン産原油の闇取引の収益だとする暗号資産約 6,100 万ドルについて、民事没収訴訟を起こした。対象はトロン上の 10 のアドレスにある約 6,119 万 USDT で、発行体のテザーが 2025 年のうちに凍結していた。
訴状が問題にしているのは取引所そのものではなく、バイナンスに口座を持っていた香港の 2 社が原油代金を暗号資産に換える窓口になっていたという経路である。制裁の執行が、取引所の口座と発行体による凍結という暗号資産インフラの 2 つの層を足場にして資金を押さえにいく。その手順が一件の訴状にまとまって見える案件だ。
■ 訴状が描く経路: 香港の 2 社とバイナンスの口座
報道によると、訴状が名指ししたのは、いずれも香港で設立された Blessed Trust Limited と Hexa Whale Trading Limited の 2 社である。Blessed Trust は金融機関に対して資産運用・暗号資産の保管業者を名乗り、Hexa Whale は商品ブローカーを名乗っていた。検察は、2 社がバイナンスの口座を使い、中国の買い手に売られたイラン産原油・石油製品の代金を暗号資産へ換えるのを手伝ったとしている。
その先にあるのが、訴状が「Entity A」と呼ぶ、事業者が管理しないアドレスの一群だ。このネットワークは原油の闇取引から 15 億ドルを超える資金を受け取って分配し、送り先にはイスラム革命防衛隊 (IRGC) に関係する送金業者、暗号資産アドレス、イランの暗号資産取引所が含まれていたとされる。今回没収を求めた約 6,100 万ドルは、この流れのうち凍結で動かなくなった部分にあたる。
ニューヨーク南部地区連邦検事局のショーン・バックリー次席検事は、今回の措置について、イラン政府とそのテロの代理勢力が米国などの市民の生命と安全を脅かすために頼る違法な資金を奪うという決意を示すものだと述べた。
■ 凍結は発行体が担い、没収は焼却と再発行で完了する
報道によると、10 のアドレスはいずれも訴状の提出時点でテザーに凍結されており、通常の USDT の送金では動かせない状態にあった。裁判所が出した差押令状は、テザーが凍結されたトークンを焼却し、同じ額を新たに発行して FBI が管理するハードウェアウォレットへ移す形で、資産を政府の管理下に置くことを認めている。
現金や銀行預金の差し押さえでは、銀行が口座を止めて政府に送金する。ステーブルコインでは、同じ役割を発行体が担う。発行体が特定のアドレスの残高を凍結でき、焼却と再発行で持ち主を移せるという仕組みがあるから、非ホスト型のアドレスに置かれた資金でも、鍵を持つ当事者の協力なしに没収の手続きを進められる。
この経路は、制裁回避の資金にとってステーブルコインが持つ弱点でもある。送金が速く国境をまたげる一方、発行体の凍結リストに載った時点で資金は動かなくなる。今回の訴訟は、2025 年に凍結されて動かなくなった資金を、裁判所の手続きを通じて正式に政府のものにする段階に入ったことを意味する。
■ 被告は資産であって、会社でも取引所でもない
民事没収訴訟は、人や会社を罪に問う刑事訴追ではなく、資産そのものを被告にして没収を求める手続きである。今回の訴訟でも被告として並ぶのは 10 のアドレスにある USDT で、香港の 2 社は起訴されていない。訴状の主張は、裁判所で認められるまでは検察側の申し立てにとどまる。
バイナンスも被告ではない。報道によると、バイナンスは制裁対象者との取引を許していないとし、今後も法執行機関に協力すると説明した。同社は Hexa Whale を 2025 年 8 月に、Blessed Trust を 2026 年 1 月に、自社の審査を経て取引から排除したとしている。
それでも、窓口となった業者が大手取引所に口座を開き、排除されるまで使えていた点は残る。取引所の本人確認は、法人が何の業者を名乗るかまでは確かめられても、その先の資金の出どころを口座開設の時点で見抜くことは難しい。今回の経路では、取引所の排除と並んで、発行体の凍結という出口側の措置が資金そのものを止めた。
■ 次に見るもの
- 没収対象の資産に権利を主張する者が現れるか。 ニューヨーク南部地区の連邦地裁の記録で、香港の 2 社やアドレスの持ち主が請求を出して争うのか、争う者がなく没収が確定に向かうのか
- Entity A の残りの資金。 15 億ドルを超える流れのうち、凍結されていない部分について、テザーによる追加の凍結や別の没収訴訟が続くか
- 取引所側の対応。 バイナンスをはじめとする取引所が、商品ブローカーや保管業者を名乗る法人口座の審査を、今回の訴状を受けて見直すと公表するか
■ ことば
- 民事没収訴訟 — 犯罪の収益だとされる資産そのものを被告にして、政府への没収を裁判所に求める米国の手続き。人を起訴しなくても進められるため、当事者が国外にいて刑事責任を問いにくい場合でも資金を押さえられる。
- USDT の凍結 — 発行体のテザーが特定のアドレスの残高を送金できない状態にする措置。今回は凍結したトークンを焼却して同額を再発行し、FBI の管理するウォレットへ移す手順が差押えの方法になった。
- イスラム革命防衛隊 (IRGC) — イランの軍事組織で、米国がテロ組織に指定している。原油の闇取引の収益が防衛隊に関係する送金業者へ流れたとされることが、今回の没収の根拠の中心に置かれた。
🔗 一次ソース
- U.S. DOJ Seeks $61 Million in What It Calls Crypto-Laundered Iranian Oil Proceeds(CoinDesk・2026年9月15日/約6,100万ドルの没収請求、Blessed Trust と Hexa Whale の名乗り、バイナンスの口座の利用、15億ドル規模のネットワーク、バックリー次席検事の発言、バイナンスの声明を確認)
- DOJ seeks $61 million in crypto proceeds from Iranian oil sales(The Block・2026年9月15日/没収請求の額、2社とバイナンスの口座、IRGC に関係する送金先を含む15億ドル超の流れ、バックリー次席検事の発言を確認)
- DOJ Seeks $61M USDT Forfeiture Tied to Iranian Oil Sales(Cointelegraph・2026年9月15日/トロン上の10アドレスで約6,119万USDTが2025年に凍結されたこと、2社が香港設立であること、バイナンスが被告でないこと、焼却と再発行でFBIのウォレットへ移す差押えの方法、バイナンスの声明を確認)
- U.S. DOJ seeks $61M in alleged Iran oil crypto proceeds(crypto.news・2026年9月15日/9月14日のニューヨーク南部地区連邦検事局による提訴、10アドレスを被告とする民事没収、提訴時点で全アドレスが凍結済みであること、2社の排除時期を確認)
- US Seeks to Forfeit $61M in Crypto Tied to Iranian Oil. The Complaint Describes a $1.5 Billion Network.(The Crypto Times・2026年9月15日/資産を対象とする民事没収であること、2社の名乗り、バイナンスが Hexa Whale を2025年8月・Blessed Trust を2026年1月に排除したこと、訴状の主張が未立証であることを確認)