Weekly Brief
LMK Weekly Brief #2|在庫が1,740万バレル積み上がった週に、原油は6.9%上げた
米原油在庫は1週間で1,740万バレル積み上がった。それでもWTIは6.90%上げて82.40ドルになった。日米10年金利差は6.4ベーシスポイント縮んだのに、円は0.99%安くなった。30年債の落札利回りは5.216%まで切り上がったのに、応札倍率2.39は平常の範囲だった。金連動トークンの残高は0.72%増えたが、金も0.70%上がっている。量が動かないまま値段だけが動いた週である。例外は暗号資産で、ビットコイン現物ETFから3億2,970万ドルが流出し、価格も3.27%下げた。量で検算できた領域と、できなかった領域に分かれた1週間だった。
Executive Summary
今週、米国の商業用原油在庫は1週間で1,740万バレル積み上がった。4億700万バレルから4億2,440万バレルである。5年平均に対する位置も、マイナス6%からマイナス2%へ戻った。供給の余裕を示す数字としては、はっきりした増加だ。
それでもWTIは6.90%上げて1バレル82.40ドルになった。今週追っている主要指標のなかで最大の上昇である。
同じ形が、ほかの数字にもある。日米10年金利差は1.887%ポイントから1.823%ポイントへ6.4ベーシスポイント縮んだ。教科書どおりなら円高方向に働く。実際にはドル円は0.99%上げて159.305円になった。30年債の落札利回りは5.216%へ切り上がったが、応札倍率2.39は直近のレンジのなかにある。買い手が引いたわけではない。
つまり今週は、量のほうが動かなかった。在庫は増え、応札は集まり、金利差は縮んだ。動いたのは値段だけである。
RWAでも同じ形だ。金連動トークンの残高は0.72%増えたが、同じ週に金は0.70%上がっている。増えたのは持ち込まれた量ではなく、担保の値段のほうである。
例外は1つだけある。暗号資産では、量のほうが動いた。ビットコイン現物ETFから週合計3億2,970万ドルが流出し、前週の8億6,530万ドルの純流入から符号が反転している。そして価格も3.27%下げた。今週、量と値段が同じ方向を向いたレーンは、ここだけである。
前号で私たちは、付け替えられたのは金利の水準ではなく政策のたどる経路だ、と書いた。今週はその次の段である。量が動かないまま値段だけが動くとき、価格が映しているのは需給ではなく、前提を置く場所のほうである。 そして今週の4つのレーンは、その置き場所が動いた領域と、量で検算できた領域とに分かれた。
Macro Lane
日本の長期金利が、1996年以来の位置に来た。 財務省の国債金利情報で確認できる直近確定値は8月13日で、10年が2.873%である。1974年以降の全13,278営業日を走査すると、これを上回る10年利回りを最後に付けたのは平成8年(1996年)11月12日の2.881%だった。8月6日からの1週間で10.0ベーシスポイントの上昇である。20年は3.741%(+8.2bp)、30年は4.002%(+8.3bp)、40年は4.006%(+9.4bp)となった。
カーブの最奥で、上下が入れ替わった。 先週は40年3.912%が30年3.919%を0.7ベーシスポイント下回っていた。今週は40年4.006%が30年4.002%を0.4ベーシスポイント上回っている。前号で私たちは「30年と40年の差が1ベーシスポイントを切ったままである以上、10年ぶんの時間を引き受ける対価が価格に入っていない」と書いた。今週その対価は、ようやく符号の上ではプラスになった。ただし0.4ベーシスポイントである。10年の追加保有に対する上乗せとしては、実質的にまだ存在しないに等しい。なお30年と40年がそろって4.0%以上になった日は、1974年以降で3日しかない。5月18日、5月19日、そして今回の8月13日である。最も高かったのは5月19日の30年・40年ともに4.043%で、今週はそこには届いていない。
米国債の入札は、前号の観測点に対する直接の答えになった。 前号では発行規模の据え置き宣言の直後に控える3日連続の入札を、最も影響の大きい検証として置いた。結果は、3年債580億ドルが落札利回り4.291%・応札倍率2.71、10年債420億ドルが4.683%・2.53、30年債250億ドルが5.216%・2.39である。1,250億ドルは消化された。ただし10年利回りは週で3.6ベーシスポイント上がり、30年の落札利回りは5月13日の5.046%、7月9日の5.058%を上回る水準まで切り上がった。需要が消えたのではなく、同じ需要が要求する価格が上がった、という形である。 応札倍率が平常の範囲にとどまっていることが、その区別を支えている。
原油は、在庫と逆に動いた。 米エネルギー情報局の週次統計(8月12日公表・8月7日時点)で、商業用原油在庫は4億2,440万バレル、前週比プラス1,740万バレルとなった。5年平均比はマイナス6%からマイナス2%へ戻っている。製油所稼働率は96.2%と高く、原油輸入は日量730万バレルで前週から114万バレル増えた。積み上がりの主因は輸入増である。ガソリンは100万バレル減、留出油は10万バレル減で、製品側は減っている。前号で私たちは、在庫が2週続けて積み上がるなら1バレル80ドル割れが定着する、と書いた。在庫は積み上がり、価格は6.90%上げて82.40ドルになった。この読みは外れている。 供給の量が増えても値段が上がったということは、今週の原油に付いていたのは在庫ではなく、供給の前提が崩れる確率のほうだったことになる。
日本銀行の「主な意見」も、前号の観測点だった。 8月10日に公表された7月30日・31日会合の議論には、金融政策の焦点が「基調的な物価上昇率の2%への引き上げ」から「基調的な物価上昇率の更なる上振れの回避」へ局面が変化した、という一文が入っている。据え置きの追認ではない。ここで押さえておくべきは、利上げを求める反対票が今年1月からほぼ毎回出ていて、4月には政策委員9人のうち3人まで広がり、6月にはその要求どおり利上げが実現している、という経緯である。今回のペースアップ論は突然の転換ではなく、年初から委員会の内部にあった議論が水準を一段上げて再提出されたものだ。転換ではなく継続であり、継続だからこそ次の一手までの距離は縮んでいる。
次に何が動くか。 日米10年金利差は3週間で1.944%ポイント、1.887%ポイント、1.823%ポイントと縮み続けている。同じ3週間でドル円は157.40円、157.745円、159.305円と上げてきた。差が縮んでいるのに円が売られる状態が3週続いた以上、この通貨ペアを金利差だけで説明する枠組みは今のところ機能していない。実践判断としては、金利差の水準ではなく、日本側の超長期の年限がどこまで買われるかを見る。40年が30年を明確に上回る幅を作れるかどうかが、期間に対する対価が価格に戻ったかどうかの判定になる。
Crypto Lane
資金は出た。前週とは向きが逆である。 米国のビットコイン現物ETFは8月10日から14日まで、日次で1億4,460万ドルの流出、780万ドルの流入、6,110万ドルの流出、1億3,110万ドルの流出、70万ドルの流出となり、5営業日のうち4営業日がマイナスで週合計3億2,970万ドルの純流出になった。前週の8月3日から7日は5営業日すべてがプラスで週合計8億6,530万ドルの純流入だったから、1週間で符号が反転している。設定来累計の純流入は522億4,300万ドルから519億1,300万ドルへ減った。イーサリアム現物ETFは週合計300万ドルの純流出で、前週の2億4,370万ドルからほぼゼロまで落ちた。設定来累計は114億6,160万ドルである。
前号の観測点は、ここで決着した。 前号で私たちは「ETFの流入が翌週も続くかどうかを、価格ではなく流入の連続日数で見る。5営業日連続の流入が途切れずに伸びるなら、価格の遅れは需給の消化の問題である。流入が続いているのに価格が動かないまま2週目に入るなら、現物側で同じだけの売りが出ていることになる」と書いた。連続は1週で途切れた。そして資金が出た週に、価格も下げている。前週の「資金が入ったのに価格が動かない」というずれは、2週目に入ることなく、両方が下を向くことで解消した。
価格は2つに割れた。 ビットコインは3.27%安の62,768ドル、イーサリアムは2.05%安の1,875.23ドルである。一方でカルダノのADAは11.42%安の0.178548ドル、ミッドナイトのNIGHTは9.61%安の0.0172702ドルだった。主要2銘柄が2〜3%台の下げにとどまるなかで、この2つは1桁台後半から2桁の下げになっている。前号でADAは19.92%高と、主要指標のなかで最大の上昇だった。上げた翌週に、最も大きく戻している。ADAとNIGHTには、ETFのような日次の資金フローの数字が存在しない。下げ幅の大きさを資金の出入りで確かめる手段が、この2つにはない。
手続きの側は、止まっていない。 SEC EDGARで8月9日から15日の提出分を確認すると、8月11日にフィデリティのイーサリアム・ファンドがS-3/A(登録番号333-297005の効力発生前修正2号)、同日にフィデリティのソラナ・ファンドがPOS AM(登録番号333-288046のフォームS-1に対する効力発生後修正4号)、8月13日にビットワイズのソラナ・ステーキングETFがPOS AM(登録番号333-283391に対する効力発生後修正2号)を出している。
そして、取り下げられた3本を引き受ける動きは出ていない。 前号で扱った8月7日のカルダノ・ポルカドット・ヘデラのトラスト取り下げについて、当該期間の提出書類のなかに、これらを引き受ける新規申請者は見当たらなかった。前号の観測点に対する答えである。
この2つを並べても、因果は出てこない。 手続きが進んだのはイーサリアムとソラナで、価格が最も下げたのはカルダノとミッドナイトである。ただしイーサリアムも2.05%下げている。手続きが進んだ銘柄が上がり、進まなかった銘柄が下がった、という整理は成立しない。金利感応度による説明——期間の長い資産ほど長期金利の上昇に弱い——は読みとしては置けるが、今週のデータだけで確かめることはできない。確かめられるのは、手続きの進み方と価格の動き方の順番が一致しなかったことのほうである。
次に何が動くか。 米上院は9月14日に戻る。前号で観測点に置いた「休会明けの3週間で市場構造法案の日程が立つか」は、今週の時点ではまだ動いていない。実践判断としては、価格の分岐を手続きの進捗で説明しようとしないこと。今週のように、進んだ銘柄も下げている週がある以上、この2つは別々に追うほうが誤りが少ない。手続き側はEDGARの提出書類、価格側は金利との連動で、それぞれ独立に見る。
RWA Lane
カテゴリ全体は274億2,000万ドル、153のプロトコルにまたがる。 前号の272億4,000万ドル・153プロトコルからほぼ横ばいである。週次で跳ねる領域ではないという前提は、今週も変わらない。
そして今週、前号が置いた検証がそのまま通った。 前号で私たちは、金連動トークンの残高について「金が反落した週に残高が同じ幅で戻れば、今週の増加は価格だけだったことになる。戻りが小さければ、実際に資産が持ち込まれている」と書いた。今週、金は反落しなかった。0.70%の小幅上昇である。そしてテザー・ゴールドの残高は31億1,200万ドルで、週次の変化率はプラス0.72%だった。金0.70%に対して残高0.72%である。 パクソス・ゴールドも0.92%増で、同じ幅の内側にある。つまり金連動トークンの残高は、この2週間、担保の値段の動きでほぼ全額が説明できる。新しく金が持ち込まれた形跡は、この数字からは出てこない。
国債連動は、今週も横ばいだった。 ブラックロックのBUIDLが35億4,600万ドルで週0.92%増、サークルのUSYCが29億9,500万ドルで0.31%減、オンドのイールド・アセッツが25億1,900万ドルで0.03%増、ウィズダムツリーが7億7,600万ドルでほぼ変わらずである。一方でインベスコのUSTBは7億8,300万ドルで2.64%減となった。前号では同じUSTBが7.6%増で週間上昇率の首位だった。1週間で符号が反転している。規模の小さいものほど週次の振れが大きい、という当たり前の性質がここに出ている。残高の週次変化率を採用の指標として読むなら、規模で重み付けをしない限り意味を持たない。
伸びたのは、規模の小さい側だった。 ハストラが5億5,800万ドルで6.05%増、スピコが24億2,200万ドルで3.29%増である。株式のトークン化にあたる領域では、xStocksが3億8,000万ドルで1.56%増、オンド・グローバル・マーケッツは9億6,100万ドルで0.10%減となった。前号でオンド・グローバル・マーケッツは5.3%増と、国債連動が横ばいのなかで伸びていた領域である。今週はわずかに減っている。前号で「規模はまだ小さく、発行体側の一次開示で裏付けが取れるまでは観測線にとどめる」と書いた判断は、今週の反転を見る限り維持してよい。
次に何が動くか。 実践判断は前号から変わらない。RWAの残高は必ず原資産の価格変化を横に置いて読む。今週の金連動トークンは、2週続けてその並べ方でしか意味が出なかった。加えて今週わかったのは、週次変化率の上位が毎週入れ替わることである。前号の首位が今週の最下位に近い位置にいる。追うべきは順位ではなく、規模の大きい上位数本が動くかどうかのほうだ。
Cross-Lane Signals
今週、量と値段が同じ方向を向いたレーンは1つしかない。暗号資産である。
ビットコイン現物ETFから3億2,970万ドルが出て、ビットコインは3.27%下げた。資金という量が減り、値段も下がった。因果を断定する必要すらない、素直な形である。
残りは、そうなっていない。原油では、在庫という量が1,740万バレル増えた。それでも値段は6.90%上がった。国債では、応札という量が平常の範囲で集まった。それでも落札利回りという値段は5.216%まで切り上がった。RWAでは、トークン化された金の量は増えていない。それでも残高という値段は0.72%増えた。通貨では、日米10年金利差という量が6.4ベーシスポイント縮んで円高方向に働いたのに、値段は0.99%の円安になった。
量が動かないまま値段だけが動くとき、価格が映しているのは需給ではない。 需給が値段を決めているなら、在庫が増えれば原油は下がり、応札が集まれば利回りは落ち着き、金利差が縮めば円は買われる。今週はどれも起きていない。動いたのは、その量をどういう前提のもとで評価するかという、置き場所のほうである。
この対比が、今週いちばん実用的な部分である。 暗号資産のように資金フローの日次データが存在する領域では、値段の動きを量で検算できる。原油・国債・通貨・RWAでは、今週それができなかった。検算できる領域とできない領域を混ぜて同じ強さで語ると、確かめられていないものを確かめたことにしてしまう。ADAとNIGHTの2桁近い下げが説明しにくいのも、同じ理由による——この2つには対応する資金フローの数字がない。
前号の主題は、政策のたどる経路が付け替えられた、というものだった。経路が付け替わると、同じ量が別の意味を持つ。今週の在庫増は、供給の余裕としてではなく、供給が途切れる前提のもとでの積み増しとして読まれた可能性がある。同じ1,740万バレルが、前提の置き場所によって逆の値段を生む。確かめられるのは、そう読まれた結果としての値段だけである。
Risk Digest
1. 「量が動かない」は今週の観測であり、傾向ではない。 4つの例が同じ方向を指したことは事実だが、1週間である。在庫と価格の逆行は、来週の統計で解消する可能性がある。次回の在庫公表は8月19日である。
2. 原油についての前号の読みは外れた。 在庫が2週続けて積み上がれば80ドル割れが定着する、と書いて、実際には82.40ドルまで上げている。外れた読みをそのまま残しておく。訂正すべきは結論ではなく、在庫を需給の指標として単独で使った枠組みのほうである。
3. 40年と30年の逆転は0.4ベーシスポイントである。 符号は変わったが、幅としては誤差の範囲にある。次の週に元へ戻る可能性は十分にあり、期間に対する対価が価格へ戻ったと結論づけるには早い。
4. 暗号資産の価格分岐に、確かめられた原因はない。 金利感応度による説明は読みであって、今週のデータでは確かめられない。イーサリアムも下げている以上、単純な分類では説明が付かない。
5. RWAの残高は、規模で重み付けをしない限り週次変化率が意味を持たない。 今週上位に入ったハストラとスピコは、前号の上位と入れ替わっている。順位の変動そのものを情報として扱わないほうがよい。
Next Week Preview
- 米週次石油在庫統計(8月19日・マクロ) — 3週連続で積み上がるかどうか。積み上がったうえで価格が下げなければ、今週の逆行が一時的でないことになる。
- 日本の超長期金利(マクロ) — 40年が30年を上回る幅を広げられるか。0.4ベーシスポイントから動かなければ、期間に対する対価はまだ価格に入っていない。
- ドル円と日米金利差(マクロ) — 差が4週続けて縮むなかで円が売られ続けるか。この組み合わせが4週目に入るなら、金利差以外の要因を主たる説明に据える必要がある。
- ビットコイン現物ETFの資金フロー(暗号資産) — 流出が2週続くか。続けば、前週の流入が一時的な戻りだったことになる。今週は量と値段が同じ向きだったので、この2つがずれ始めるかどうかが次の分岐になる。
- 米上院の日程(暗号資産) — 9月14日の復帰まで3週間を切る。市場構造法案の審議日程が立つかどうか。
- 金連動トークンの残高(RWA) — 金が反落する週が来たときに、残高が同じ幅で戻るか。2週続けて価格連動が確認されているので、次は反対方向での確認になる。
注視しておくもの。 事業所調査の予備ベンチマーク改定が8月28日に公表される。月次の増減ではなく水準が引き直されるため、7月分の弱さの意味そのものが変わりうる。次回の雇用統計は9月4日である。
投資助言ではありません。情報提供・リサーチ目的のみ