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Deep Dive

🔬 Deep Dive|赤字12.7兆円の Anthropic、4〜6月期は営業黒字

Anthropic の S-1 を一次資料で読む。純損失12.7兆円の内訳、売上を押し上げた Claude Code と従量課金、2045年まで続く計算資源の約束、5 種類の株による統治、SpaceX と並ぶ二つの上場が開く AI の近未来まで。

LiveMakers 編集デスク

🔬 Deep Dive|赤字12.7兆円の Anthropic、4〜6月期は営業黒字

Anthropic が10月26日に米証券取引委員会 (SEC) へ出した上場の届出書 (S-1) は、2026年1〜6月の純損失を807億ドルと記した。10月30日の欧州中央銀行 (ECB) の参照レートで約12.7兆円にあたるが、そのうち724億ドルは評価額が上がるほど膨らむ転換社債などの評価損で、4〜6月期の本業は9.7億ドルの営業黒字に転じている。

6月12日には SpaceX が公開価格135ドル、調達額750億ドルで Nasdaq に上場した。宇宙と通信に xAI を抱えた SpaceX に続き、AI を作る会社そのものが公開市場に出てくる。届出書を読むと、この上場は大型 IPO の記録の話では終わらない。AI は使った量で請求する公共料金型の商売になり、2045年まで支払いが続く設備産業になり、利益だけでは動かない統治の下で一般の投資家の資金を迎えようとしている。本稿では S-1 の数字と条文から、Anthropic が何を考え、何を市場に持ち込み、何をリスクとして認めたのかを読み、その先の数年の AI を描く。

純損失12.7兆円の内訳、評価損が映す企業価値

S-1 の損益計算書を、上半期で前年と並べるとこうなる。

項目2025年1〜6月2026年1〜6月
売上11.6億ドル162.9億ドル
営業損益▲21.4億ドル▲6.9億ドル
利息収入1.2億ドル11.1億ドル
転換社債・SAFE などの評価替え▲109.4億ドル▲723.9億ドル
その他の損益―▲87.6億ドル
純損失▲129.7億ドル▲807.5億ドル

転換社債と SAFE は、将来の株価で株に換わる約束で集めた資金だ。会社の評価額が上がるほど、その約束の帳簿上の値段も上がり、差額が損失になる。S-1 自身が、評価損の主な原因を「企業価値の上昇」と書いている。現金はほとんど出ていかない。

その他の損益87.6億ドルも、大半は同じ種類の計上だ。半導体の調達に絡む社債の購入契約を、時価で94.1億ドルの損失として計上している。評価に関わるこれらを除けば、上半期の営業損失6.9億ドルは、手元資金の利息収入11.1億ドルで埋まっている。

四半期で見ると、変化はさらに急になる。4〜6月期の売上は115.6億ドルで、1〜3月期の47.3億ドルから2.4倍。営業損益は1〜3月期の16.7億ドルの赤字から、9.7億ドルの黒字に転じた。同じ四半期の評価損は596億ドルで、純損失663億ドルのほぼ全部を占める。本業が黒字になった四半期に、帳簿の赤字は過去最大になった。

ここが本筋だ。

Anthropic の赤字の大きさは、評価額が上がった速さの裏返しになっている。現金の流れも同じ向きを指す。上半期の営業キャッシュフローは39.3億ドルの入金超で、前年同期の15.1億ドルの出金超から反転した。6月末の現金は1,124億ドル、短期の投資は193億ドル。創業からの調達額は累計1,411億ドルに達した。

ただし、この帳簿上の赤字は見かけの問題では終わらない。S&P Dow Jones Indices は6月4日、S&P 500 の採用基準を変えないと発表した。上場からの経過期間と、米国会計基準 (GAAP) の純利益を含む財務の条件はそのまま残り、時価総額の大きさだけを理由にした例外は認めない。評価損で膨らんだ純損失は、世界の年金や投資信託が連動する指数への入口を当面閉ざす数字でもある。上場で転換社債の多くが株に換われば、評価損の発生源は細る。それでも S&P 500 の採用は、早くても上場から12か月後の判断になる。

1年で14倍の売上、牽引役は Claude Code と従量課金

年間の売上は、2023年の4,100万ドルから、2024年の3.9億ドル、2025年の45.9億ドルへと、毎年ほぼ10倍で伸びてきた。2026年は上半期だけで162.9億ドル。四半期で見ると、2025年1〜3月期の3.8億ドルから5四半期で31倍になった。

稼ぎ方の中心は、S-1 が "pay-for-intelligence" と呼ぶ従量課金だ。顧客は AI が処理した量をトークン (文章を細かく刻んだ単位) で量り、選んだモデルの単価で払う。上半期の売上のうち131億ドル、80% がこの従量課金で、Claude Pro や Max などの定額の購読は32億ドル、20% にとどまる。電気や水道と同じく、使った量がそのまま請求額になる。

使う量を押し上げているのが、コードを書く AI エージェントの Claude Code だ。S-1 によると、2026年7〜9月期に Claude Code を使わない Claude Enterprise の利用者は、1人あたり月75ドル未満しか使っていない。Claude Code を使う上位5% の利用者は、その約20倍を使った。AI に質問する人と AI に仕事を任せる人とで、支払いが一桁以上ちがう。

顧客の広がりも数字に出ている。直近12か月で10万ドル以上を払った顧客は、2025年9月末の950社超から、2026年9月末には1万1,900社超へ増えた。既存顧客の支払いが1年でどれだけ増えたかを示す売上継続率は約900% で、同じ顧客がおよそ9倍使うようになった計算だ。

弱点もここにある。上半期の売上の48% は、AWS・Google Cloud・Microsoft Azure のマーケットプレイス経由だった。2023年に11% だった比率は、2年半で4倍を超えた。6月末の売掛金でも58% がクラウド経由で、請求と回収を大手クラウドに頼っている。Anthropic のモデルを売る窓口は、計算資源の仕入れ先でもあり、他社のモデルを並べる売り場でもある。

2045年まで続く計算資源の約束

上半期の費用で最も大きいのは、計算資源とインフラの89.4億ドルだ。売上の55% にあたる。機能別に分けると、顧客に提供するための売上原価が23.8億ドルなのに対し、研究開発費は97.4億ドルに上る。今のモデルを動かす費用より、次のモデルを作る費用のほうがはるかに重い。投資キャッシュフローは上半期で171.8億ドルの出金超、財務キャッシュフローは1,107.7億ドルの入金超だった。集めた資金の多くは、計算資源に向かっている。

S-1 のリスク要因には、この先の約束がもっと長い時間軸で書かれている。Anthropic は計算資源とリース契約で、使う量にかかわらず支払う「テイク・オア・ペイ」型の義務を負い、その大半を2031年から2045年に支払う見込みだという。約束の総額と、12か月以内に払う額は、今回の届出書では空欄のままだ。

S-1 はこの約束の弱点も自分で書いている。売上は主に従量課金で、長期契約で固まっている部分は少ない。計算資源の支払いは複数年に及ぶ。売上の伸びが支払いに追いつかなければ、一つの契約の不履行が借入契約のクロスデフォルト条項に触れ、ほかの債務の返済まで早まりうる。

調達の形も変わった。Anthropic は2026年3月、Broadcom と AI 用の専用チップと部品を借りるリース契約を結んだ。Broadcom はこの契約を金融機関に譲る予定で、Anthropic は4月、支払いの担保として現金を専用口座に預けている。Reuters によると、Bank of America・Citigroup・Morgan Stanley・Blackstone は10月26日、Broadcom のチップと通信機器を買い取って Anthropic に貸し出す特別目的会社を通じ、630億ドルを用意すると明らかにした。納入は2027年に始まる見込みだ。

同じ3月、Anthropic は Broadcom と、最大420億ドルの転換社債を発行できる契約も結んだ。リースの支払いを、必要なら将来の株に換わる社債で賄える仕組みだ。6月末の借入62億ドルは、Amazon が持つ転換社債の元本だ。上場時に Amazon の保有比率の上限の範囲で株に換わり、残りは上場後も四半期ごとに株へ換わっていく。クラウドの供給者も半導体の供給者も、代金の一部を株で受け取る株主の側に回りうる。

電力と立地も約束に含まれる。S-1 は、データセンターの建設が地域の電力・水・土地の配分をめぐる反発と規制を招いていると書き、米国の輸出規制が将来、先端チップを置ける国やモデルの重みを保管できる国まで制限しうると書く。計算資源は、ソフトウェア企業の仕入れというより、電力会社や製鉄所に近い重さの設備になった。

議決権の50.1% は創業者、取締役の過半数は信託

S-1 は自社の統治を「他の上場企業と大きく異なる」と書く。上場後の普通株は5種類ある。

株の種類持ち手配当や値上がりの権利議決権
クラス A上場で買う一般の投資家などあり1株1票
クラス N主に戦略的な提携先ありなし (第三者に売るとクラス A へ)
クラス F創業者7人の会社 (1株のみ)なし株主総会の議決権の50.1%
クラス T長期利益信託 (LTBT)なし取締役の過半数を選任・解任
クラス E創業者以外の従業員なし限られた事項のみ

経済的な利害を持たない信託が取締役会の過半数を選び、残りの取締役の選任と株主総会の決議は、創業者の1株が過半数で決める。クラス A の株主は配当や値上がりの権利を持つが、会社の進路を票で変えることはできない。Nasdaq の基準でいう、支配株主のいる会社 (controlled company) にあたる。

これと対になる仕組みも用意した。Anthropic は8億4,684万株、完全希薄化後の5% にあたるクラス N 株を、全額出資の Anthropic Public Benefit Fund に拠出した。さらに取締役会は、公開価格を起点に株価が直前の節目から50% 上がるたびに、最大2% を追加で同基金に出せる枠組みを承認している。株価が上がるほど、その一部が公益の目的に回る。創業者7人はそれぞれ、自分の保有株の80% を慈善に充てると誓約した。

Google や Meta は、創業者に議決権を集める株式の設計で上場した。Anthropic はそこに、利益と切り離された信託を重ねた。株価の短期の圧力と安全を優先する判断がぶつかったとき、どちらを通すかは上場の前に決めてある。届出書の上で、最後に決めるのは信託と創業者だ。

AI による AI 研究の加速を書き込んだリスク要因

リスク要因の章で、Anthropic は十分に高度な AI が適切な安全策なしに開発・運用されれば、人類に破滅的、あるいは存亡に関わるリスクをもたらしうると書いた。続けて、自社のモデルがすでに自社の研究の速さに寄与していると認め、AI が AI の研究開発を大きく自動化するにつれて、新しいモデルを評価し安全策を講じる力を上回る速さで進歩が進めば、リスクは増すと書いている。

AI エージェントの危険も具体的だ。顧客の権限で外部のシステムに触れ、コードを実行し、送信や取引を行い、数時間から数日にわたって自律で動く AI は、誤りや意図とのずれが起きたときの被害を大きくする。売上を押し上げている Claude Code の性質が、そのままリスク要因にも並んでいる。

お金の面のリスクも書いてある。2025年には、著作権侵害の集団訴訟 (Bartz 訴訟) の和解金15億ドルを費用に計上した。和解は2026年7月に連邦地裁が承認したが、楽曲の歌詞をめぐる音楽出版社の訴訟などは続いている。顧客のうち成長途上の企業はベンチャーキャピタルの資金に頼っていて、その資金が細れば Anthropic への支払いも減りうる。AI 企業に流れ込む投資マネーが、Anthropic の売上の一部を支えている。

SpaceX と Anthropic、二つの上場が開いた AI の数年

SpaceX は6月12日、公開価格135ドルで750億ドルを集めて上場し、初日の終値は160.95ドルと19% 上がった。SpaceX は2026年2月2日に xAI を統合していて、上場の時点で宇宙・通信と AI を一つの会社に抱えていた。2025年の売上は186.7億ドル、普通株主に帰属する純損失は49.4億ドルだった。Anthropic は2026年の上半期だけで、その SpaceX の年間売上の87% を稼いでいる。

二つの会社には共通点がある。どちらも物理の設備に巨額の先行投資をし、その上で動く仕事に課金する。SpaceX はロケットと衛星を打ち上げて通信を売り、Anthropic はデータセンターに計算資源を積み上げて知能を売る。これまで最先端の AI と宇宙開発は、非上場の資金と国の予算で動いてきた。2026年の二つの上場で、その請求書の一部が公開市場に回ってくる。指数に採用されれば、指数に連動する年金や積立の資金も、いずれ計算資源と打ち上げの費用を支える側に立つ。

S-1 は、数年以内に「Powerful AI」が広く使えるようになると書き、その特徴を5つ挙げた。

  • 大半の専門・科学分野で、一流の専門家に並ぶか上回る認知能力
  • 人がリモートで働くときに使うすべての画面を扱う力 (文字・音声・動画・コンピュータの直接操作)
  • 数時間から数日、数週間にわたる複雑な仕事を自律で進め、必要に応じて確認を求める力
  • 複数の AI どうし、AI と人が協調して働く力
  • 実験装置やロボットをデジタルにつなぎ、物理の世界を動かす力

このうち画面の操作と長時間の自律は、Claude Code と企業向けのエージェントで課金がすでに始まっている。複数の AI の協調がその次に来て、5つ目の物理の世界との接続は、ロケットと衛星を持つ SpaceX が先に立っている領域に重なる。届出書が描くのは、AI が質問に答える道具から、仕事を請け負い、やがて機械を動かす労働の基盤へ移る数年だ。AI の値段は1回の質問ではなく1件の仕事で測られるようになり、その請求額が電力や通信と並ぶ固定費として企業の帳簿に載る。

この先12〜24か月の分岐は3つに分かれる。

  • Base: 上場は成立し、売上の伸びは鈍りながらも計算資源の支払いを上回る。AI は電力や通信と同じ従量課金のインフラとして株式市場に定着し、評価損の消えた GAAP の利益が S&P 500 への道を開く
  • Risk: 景気や金利の変化で、ベンチャー資金に頼る顧客の支払いが細る。従量課金の売上は速く縮みうる一方、2045年まで続く計算資源の支払いは縮まない。設備産業の固定費の重さが、初めて株価に出る
  • Alt: 安全性の問題が先に来る。AI が AI の研究を速めるなかで評価が追いつかない場面が生じ、信託が選んだ取締役会が市場の期待と違う判断を下す。公益法人と長期利益信託の設計が、上場企業として試される

10兆円を超える赤字という数字だけを見れば、Anthropic は危うい会社に見える。届出書の中身は逆を向いていて、本業は黒字に届き、帳簿の赤字は評価額の上昇を映している。その上で Anthropic は、自分たちの作るものが人類に破滅的なリスクをもたらしうると書き、利益だけで動かない統治を組み込んだまま上場を選んだ。SpaceX が宇宙を産業に変えたように、Anthropic は知能を、量って売る産業に変えようとしている。その会社にどこまでのお金と判断を預けるのかという問いが、2026年の二つの上場で個人の投資家にまで届いた。

次に見るもの

最初の確認点は、SEC の EDGAR に出る S-1 の修正版 (S-1/A) だ。今回の届出書では、公開価格の仮の範囲、売り出す株数、10月31日時点の年換算売上、計算資源の約束の総額が空欄になっている。約束の総額と12か月以内に払う額が埋まれば、売上と固定費の釣り合いを初めて外から測れる。

2つ目は、上場後に出る最初の四半期報告 (Form 10-Q) だ。転換社債が株に換わったあとに評価替えがどれだけ残るかで、GAAP の純利益が黒字に届く時期が見えてくる。3つ目は、2027年に始まる Broadcom のチップの納入。630億ドルの貸し出しが動き出す時期と従量課金の売上の伸びが重なるかどうかが、Base と Risk の分かれ目になる。

ことば

  • S-1 — 米国で株式を公開する企業が SEC に出す届出書。事業・財務・リスク・統治を開示し、空欄の価格や株数は修正版の S-1/A で埋めていく。上場前の会社を外から読める、ほぼ唯一の一次資料になる。
  • 転換社債の評価損 — 将来株に換わる約束で借りたお金は、会社の評価額が上がるほど帳簿上の値が増え、その増加分を損失として計上する。成長の速い非上場企業ほど赤字が大きく見えるのはこのためで、上場で株に換わると発生源が細る。
  • LTBT (長期利益信託) — Anthropic の取締役の過半数を選ぶ信託。会社の株の値上がりで得をしない受託者が務め、AI の安全・国家安全保障・公共政策・社会的企業の専門家で構成される。上場後もクラス T 株を通じて取締役会の多数を握る。

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