Deep Dive
🔬 Deep Dive|米4大リーグ、予測市場で 3 対 1 に分裂
NBA が CFTC と覚書を結び、MLB・NHL に続く 3 リーグ目になった。NFL は州の側に立ち最高裁に意見書。予測市場を誰が監督するかで、米4大リーグの選択が割れた。

米プロバスケットボールの NBA は10月26日、米商品先物取引委員会 (CFTC) と試合の公正さを守るための覚書 (MOU) を結び、同じ日に予測市場の Kalshi と Polymarket を「推奨の予測市場取引所」に指定した。CFTC と覚書を結んだプロスポーツのリーグは、3月の MLB、5月の NHL に続いて 3 つ目になる。
米国の 4 大リーグのうち、残る NFL は逆の側に立った。10月8日、スポーツの予測市場は州の賭博規制に従うべきだとする意見書を連邦最高裁に出している。3 リーグは連邦の取引所と契約を結んで守る道を選び、NFL は州の免許制度の側に付いた。
単なるスポンサー契約のニュースではない。スポーツの結果に値段をつける市場を誰が監督するのかという問いに、裁判所と規制当局より先に、試合を主催するリーグ自身が答え始めている。本稿では、3 リーグの契約の型、NFL が州の側に付いた理由、リーグの選択が割れた司法の争いにどう重なるかを順に読む。
7か月で揃った 3 リーグの型
先に動いたのは NHL だ。2025年10月22日、Kalshi と Polymarket を米国での公式の予測市場パートナーに選び、複数年の契約を結んだ。2 社は NHL の公式データと、リーグのロゴや呼称を使う権利を得た。
MLB は2026年3月19日、Polymarket を独占の「公式予測市場取引所」に指定し、同じ日に CFTC と覚書を結んだ。CFTC はこれを、プロスポーツのリーグとの間で初めての覚書だと発表している。Polymarket はリーグの公式データを、MLB の予測市場向けデータの配信を独占する Sportradar から受け取る。代わりに、1 球ごとの結果、監督の采配、審判の判定といった操作されやすい市場は扱いを制限する。MLB は、野球の契約を扱うほかの取引所にも、同じ公正さの仕組みを取引所の規則に組み込むよう求めるとしている。
NHL は5月21日に CFTC と覚書を結び、NBA が10月26日に続いた。NBA の契約は MLB の型をほぼ引き継いでいる。
- Kalshi と Polymarket は NBA の知的財産と米国での販促の権利を得て、公式データを Sportradar から受け取る
- その代わり、取引を認める市場の種類が制限され、リーグとチームの関係者は NBA のイベント契約を取引できない
- 調査と不審な取引について、情報を共有する義務を負う
- スポーツ賭博の公式パートナーだった DraftKings も、予測市場の「認可運営者」に加わる
3 リーグに共通するのは、商業の契約と覚書の二段構えだ。データとロゴを渡す契約の中で、扱ってよい市場と取引してよい人を決める。覚書は、そこで集まった不審な取引の情報を CFTC に届ける窓口になる。覚書は自ら「法的な拘束力のある権利や義務を作らない」と書いており、拘束力を持つのは契約の側にある (覚書の条文は本サイトの NBA の Signal で読んだ)。
リーグが握る交渉材料は、公式データとロゴ
この型が成り立つのは、リーグが予測市場の側の欲しいものを持っているからだ。
1 つは公式データだ。予測市場のスポーツの契約は、試合の結果や得点が確定した時点で決済される。リーグが認めたデータを使えば、決済の根拠を誰も争えない。Kalshi は X の告知で、取引の決済に NBA の公式データを使うことを最初に挙げた。
もう 1 つはロゴと呼称だ。「NBA の推奨取引所」と名乗れることは、予測市場が賭博の延長ではなく、リーグに認められた場だと利用者に示す材料になる。Polymarket は告知で、リーグの公式の取引所になったことを前面に出した。
リーグはこの 2 つと引き換えに、取引所の中に自分たちの規則を持ち込む。どの市場を禁じるかを、規制当局が決めるより先に、契約で決めてしまえる。
なぜリーグがそこまで公正さに神経を使うかは、NBA 自身の経験が示している。NBA は2024年4月、トロント・ラプターズのジョンテイ・ポーター選手を永久追放した。リーグの調査によると、ポーター選手は自分の体調の情報を賭けをする知人に漏らし、出場時間を自ら短くした。その不審な賭けをリーグに知らせたのは、州の免許を持つスポーツ賭博の事業者と、合法の賭博市場を監視する団体だった。
州の賭博には、リーグに不審な賭けの情報が届く経路がすでにある。予測市場の取引所と結ぶ契約と CFTC との覚書は、同じ経路を連邦の側にも敷く作業だといえる。
NFL が州の側に付いた理由
NFL の意見書は、ニュージャージー州が最高裁に上告受理を求めている Flaherty v. KalshiEX (No. 26-299) で、州の側を支持するものだ。
意見書は、NFL が予測市場そのものを拒んでいるわけではないと読める。CFTC と取引所が州と同じだけの安全策をとるなら、どちらが監督するかは「難解な管轄の問題」にすぎなくなる、と書いているからだ。問題にしたのは、その安全策の差だ。NFL が挙げた例は次の 3 つだった。
- NFL は、1 人で結果を動かせる契約 (キッカーがフィールドゴールを外すか)、選手のけがに関わる契約、審判の判定に関わる契約、事前に結果が分かりうる契約 (最初のプレーがランかパスか) の 4 種類を禁止するよう求めたが、CFTC と取引所は応じていない
- 州の多くはスポーツ賭博を 21 歳以上に限るが、CFTC は予測市場で 18 歳の取引を認めている。同じ試合に、州の賭博では賭けられない 18 歳が Kalshi では賭けられる
- ネバダ州とペンシルベニア州の賭博規制当局は、それぞれ 400 人近い職員を抱える。CFTC の職員は全米で 543 人で、イベント契約以外のデリバティブも見ている
監督の手間が増えていることも数字で示した。CFTC 自身の規則案によると、ある予測市場の 1 日あたりのイベント契約の数 (平均) は、2025年4月の 1,600 件から2026年4月の 16 万 2,000 件に増えた。取引所は契約が規則に合うと自ら認証すれば、翌営業日から売買を始められる。
そのうえで NFL は、予測市場の取引に占める自分たちの重さも書いた。今季の開幕日曜日には、予測市場の取引高 33 億ドルのうち 18 億ドル、つまり半分超が NFL に関わる契約だったという。
NFL が最高裁に求めたのは、来季の前に結論を出すことだ。州の側が勝てば、州の規制がそのまま予測市場に及ぶ。逆に連邦の側が勝てば、2027年のシーズンまでに CFTC と取引所と議会に安全策を求める働きかけを強める、と書いている。
同じ公正さを掲げた正反対の選択
3 リーグと NFL は、どちらも試合の公正さを理由に掲げている。違うのは、それを誰に守らせるかだ。
MLB・NHL・NBA は、取引所との契約に禁止事項を書き込み、自分の手で守る道を選んだ。規則が定まるのを待たずに、自分のデータとロゴを交渉材料にして、リーグごとの基準を取引所に飲ませる。権利を渡す対価も得る (金額は公表されていない)。
NFL は、2018年に最高裁がスポーツ賭博を州の判断に委ねて以来、州の規制当局と組み上げてきた仕組みを使い続ける道を選んだ。NFL は当時、州の賭博解禁に反対した側の当事者だったが、いまは州の制度を守る側にいる。開幕日曜日の取引高の半分を占めるリーグが、CFTC と覚書を結んだリーグの列に加わっていない。
この差は、予測市場の規則がどこで書かれるかの差でもある。3 リーグの道では、禁止する市場や取引できない人の範囲は、リーグと取引所の契約ごとに決まる。NFL の道では、州の法律と規制当局が決める。どちらの道でも、CFTC の規則は後から追いかける形になる。
割れた司法の上に積み上がる契約
リーグの選択は、まだ決着していない法廷の争いの上で進んでいる。スポーツの予測市場が連邦の取引所で扱う「スワップ」なのか、州が免許を出す賭博なのかで、連邦控訴裁は割れている。第3巡回区は Kalshi の側に立ち、第9巡回区と第6巡回区は州の側に立った (詳しくは本サイトの Deep Dive で読んだ)。
最高裁の事件記録には、10月7日にオハイオ州など 39 州とワシントン D.C. の意見書が、8日には NFL のほか米ゲーミング協会、145 の先住民部族、元 CFTC 委員長のゲンスラー氏、ドッド・フランク法を主導した元上院議員のドッド氏の意見書が並ぶ。Kalshi の答弁の期限は11月9日だ。
CFTC の側は10月9日、州が免許を出すスポーツブックの賭けをスワップから外す暫定最終規則と、予測市場のイベント契約をスワップに含める規則案を同時に出した。予測市場は連邦、スポーツブックは州、という線を条文で引こうとしている。
NBA の覚書は、このさなかに結ばれた。CFTC のセリグ委員長は、NBA が「MLB と NHL に続いて」責任ある一歩を踏み出したと述べている。CFTC から見れば、主要リーグのうち 3 つが連邦の監督の枠組みに協力しているという事実は、CFTC の監督は手薄だという NFL の主張への答えになる。最高裁が上告を受理するかを考える時期に、この事実は積み上がっていく。
リーグが共同の監督者になるとき
予測市場は、選挙、金利、天候、スポーツといった出来事の確率に値段をつける。NFL の意見書が引く Pew Research Center の分析では、Kalshi の取引高の 8 割をスポーツが占めてきた。この市場が金融のインフラとして根付くか、州ごとの賭博として分かれるかは、最後は最高裁と議会が決める。
ただ、その前に別の変化が進んでいる。リーグが公式データとロゴを渡す代わりに、取引所の中の規則を書き、不審な取引の情報を規制当局につなぐ。これは、試合を主催する民間の団体が、市場の監督の一部を契約で担う形だ。証券取引所が上場企業に開示の規則を課すように、リーグが取引所に禁止市場の規則を課す。予測の値付けは、取引所と規制当局とリーグの三者で管理されるものになりつつある。
最高裁がどちらの側に立っても、この三者の関係は残る。州の側が勝てば、リーグの契約は州ごとの免許の条件と並ぶ。連邦の側が勝てば、リーグの契約は CFTC の規則の空白を埋めるものになる。NFL が、連邦の側が勝っても CFTC と取引所と議会に安全策を求め続けると書いたのは、規則を書く席に座ることが、どちらの道でもリーグの狙いだからだろう。
次に見るもの
確認先は 3 つある。
1 つ目は、連邦最高裁の事件記録 (No. 26-299) だ。11月9日に Kalshi が答弁書を出し、その後に事件がどの審議日に回されるかが記録に載る。
2 つ目は、NBA の発表文が予告した「今後数週間」の追加の提携だ。DraftKings 以外のスポーツ賭博の公式パートナーが、どれだけ予測市場の認可運営者に加わるかで、賭博と予測市場の境目がリーグの中でどう扱われるかが見える。
3 つ目は、CFTC のプレスリリースの一覧だ。MLB・NHL・NBA に続いて 4 つ目の覚書の相手が出るか。NFL がその列に加わるなら、リーグの分裂はそこで終わる。
ことば
- 自己認証 — 取引所が新しい契約について「規則に合っている」と自ら CFTC に届け出れば、翌営業日から上場できる仕組み。CFTC は後から審査して止められるが、1 日に十数万件の契約が並ぶ取引所もあり、NFL はこの仕組みを安全策の穴だと指摘した。
- 公式データ — リーグが認めた試合の記録や得点のデータ。予測市場の契約の決済に使われる。NBA と MLB はどちらも Sportradar を通じて配信しており、取引所にとっては決済の根拠を争われないための鍵になる。
- 意見書 (アミカス・ブリーフ) — 裁判の当事者ではない団体や個人が、裁判所に判断の材料を出す書面。最高裁の上告受理の段階でも出せる。NFL は州の側を支持する意見書を出した。
🔗 一次ソース
NBA の発表文 (NBA.com・2026年10月26日/Kalshi と Polymarket を推奨の予測市場取引所に・DraftKings を認可運営者に・公正さの保護の 3 項目・今後数週間の追加の提携)NBA.com
CFTC: NBA との覚書の発表 (Release 9314-26・2026年10月26日/セリグ委員長の声明)cftc.gov- CFTC と NBA の覚書の本文 (PDF・法的な拘束力を作らない旨の条項)cftc.gov
- Kalshi 公式 X の告知 (2026年10月26日)
MLB の発表文 (2026年3月19日/Polymarket を独占の公式予測市場取引所に・Sportradar の公式データ・1 球ごとの結果や監督の采配・審判の判定の市場の制限)MLB.com
CFTC: MLB との覚書の発表 (Release 9199-26・2026年3月19日/プロスポーツのリーグとの初の覚書)cftc.gov
NHL の発表文 (NHL.com・2025年10月22日/Kalshi と Polymarket と複数年の契約)nhl.com
CFTC: NHL との覚書の発表 (Release 9235-26・2026年5月21日)cftc.gov- NFL の意見書 (連邦最高裁 No. 26-299・2026年10月8日/禁止を求めた 4 種類の契約・21 歳と 18 歳・州と CFTC の職員数・開幕日曜日の取引高・1 日の上場件数の推移)supremecourt.gov
- 連邦最高裁: Flaherty v. KalshiEX (No. 26-299) の事件記録 (答弁期限 11月9日・各意見書の提出日)
- NBA: ジョンテイ・ポーター選手の永久追放の発表 (2024年4月17日/不審な賭けを知らせたのは州の免許を持つ事業者と監視団体)
- CFTC: イベント契約をスワップに含める規則案 (Release 9310-26・2026年10月9日)
- CFTC: カジノ型の賭博商品をスワップから外す暫定最終規則 (Release 9309-26・2026年10月9日)