Deep Dive
🔬 Deep Dive|財務省、国債のオンチェーン対応へ研究会を設置
財務省が国債のオンチェーン対応を検討する研究会を設置。日銀と金融庁がオブザーバーで加わり、12月〜翌年1月に議論を整理する。国債と日銀当座預金、証券と資金の両側の検討が年明けに並ぶ。
財務省は9月30日、「国債のオンチェーン対応に関する研究会」を開くと公表した。第1回は10月8日10時、理財局次長が主催し、日本銀行と金融庁がオブザーバーとして加わる。12月から翌年1月をめどに、それまでの議論を整理する。
単なる研究会の設置ではない。7月の金融戦略が財務省に割り振った宿題、つまり国債のトークン化と元利払いのオンチェーン決済を、国債を発行する当事者が自ら引き取った最初の公式の場だ。金融庁が9月25日に公表した「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」は、各省庁の検討を横に並べて追いかける枠組みだった。今回は、そこに並んだ一項目が担当官庁の中で専用の検討体制を持った。国債と日銀当座預金という、日本の金融の底にある二つの台帳が、同じ時期に同じ問いへ向き合い始めている。
公表資料は1枚に収まる
財務省の公表資料は短い。書かれているのは趣旨、構成員、位置づけ、日程、事務局の5項目だけだ。
- 趣旨:国債のオンチェーン対応について、識者から意見や助言を得るために研究会を開き、意見交換を行う
- 委員:加藤貴仁氏(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、加毛明氏(同教授)、篠潤之介氏(早稲田大学国際学術院准教授)、森田長太郎氏(オールニッポン・アセットマネジメント チーフストラテジスト兼ウォールズ&ブリッジ代表)、柳川範之氏(東京大学大学院経済学研究科教授)
- オブザーバー:日本銀行、金融庁
- 位置づけ:理財局次長が主催。会議は非公開で、議事要旨と配布資料は後日公開
- 日程:第1回は10月8日(木)10時。12月から翌年1月をめどに議論の内容を整理
- 事務局:理財局国債企画課・国債業務課
5人の委員のうち2人が東京大学の法学政治学研究科に属し、市場の実務家が1人入る。事務局には理財局の国債企画課と国債業務課が入る。技術の実証よりも、国債という法的な権利をブロックチェーン上でどう扱うか、そして既存の発行・決済の実務とどうつなぐかが論点の中心に置かれる構成と読める。
宿題は7月の金融戦略に書かれていた
研究会の出発点は、金融庁が7月21日に取りまとめた「成長投資を促進するための金融戦略」だ。オンチェーン金融の推進に向けて関係省庁の取り組みを追いかける項目の中に、財務省についてこう書かれている。「国債等のトークン化対応、及び元利払いを投資家のニーズに応じてオンチェーン決済を可能とすることの検討を進める」。
ここには二つの論点が入っている。一つは国債そのものをトークンとして表すこと。もう一つは、利払いと償還の資金をオンチェーンで受け渡せるようにすることだ。前者は証券の側、後者はお金の側の話になる。
同じ文書は、日本銀行について「日銀当座預金のオンチェーン対応につき、年内に実装に向けた論点整理と実現に向けた道筋に関する検討状況について取りまとめる」と書いている。財務省の研究会の整理は12月から翌年1月、日本銀行の取りまとめは年内、金融庁のフォーラムの中間整理は2027年初。三つの期限が、年末から年明けの同じ時期に重なっている。
現在地は「翌営業日決済」
報道によると、財務省は研究会で、国債取引の即時決済を念頭に置き、翌営業日に決済する現在の取引慣行と照らしてメリットとデメリットを洗い出す。担当者は、米国で国債を裏付けとするマネー・マーケット・ファンドがブロックチェーン上で取引されている例にも触れたという。
日本の国債取引は、2018年5月1日の約定分から、国内居住者間で約定の翌営業日に決済する T+1 に移っている。それ以前は T+2 だった。
決済までの時間を縮める意味は、取引相手が決済の前に破綻するリスクを減らすことにある。即時決済はその時間差をゼロに近づける。その一方で、売り手は国債を、買い手は資金を、取引の時点で手元に用意しておく必要が出てくる。現在の仕組みでは、一日の取引を差し引きして最後に受け渡すことで、必要な資金と国債の量を抑えている。即時にすれば、この差し引きの効果が薄れる。
ここが本筋だ。即時決済の検討は、市場参加者がどれだけの資金と国債を常に手元に置くかという、流動性の設計に行き着く。
国債の決済は、日銀当座預金と対で動く
国債の決済は、証券と資金を同時に受け渡す仕組みで行われている。国債の振替機関は日本銀行で、国債の受け渡しと代金の支払いは、日本銀行の決済システムの上で対になって完了する。代金の側は、金融機関が日本銀行に置く当座預金だ。
この構造から見ると、財務省の研究会に日本銀行がオブザーバーで入る理由ははっきりしている。国債だけをオンチェーンにしても、代金を払う日銀当座預金がブロックチェーンの外にある限り、証券と資金を同時に受け渡すことはできない。証券と資金の台帳は、両方そろって初めて動く。
7月の金融戦略が、財務省の国債と日本銀行の当座預金を同じリストに並べたのはそのためだ。財務省の研究会は12月から1月に議論を整理し、日本銀行は年内に当座預金のオンチェーン対応の道筋を取りまとめる。二つの整理が同じ時期に出てくることで、証券と資金の両側の検討状況が初めて並んで見えるようになる。
国債がオンチェーンに乗ると、何が変わるか
国債は日本の金融システムを代表する担保だ。銀行間の資金のやり取り、レポ取引、日本銀行の資金供給オペまで、多くの取引が国債を担保に動いている。
その国債がブロックチェーン上で、時間を問わず受け渡せるようになれば、担保の移動は営業時間と翌営業日の枠から外れていく。金融庁がオンチェーン金融フォーラムの出発点に置いたのは、AIエージェントが言語や時差に関係なく取引する時代に、決済も24時間365日の稼働が求められるという認識だった。決済が24時間動くなら、その裏付けとなる担保も24時間動けなければならない。国債のオンチェーン対応は、その要件を金融の一番底から満たす作業になる。
円建てのステーブルコインやトークン化預金が広がれば、それを裏付ける資産や、発行体が資金を運用する先として、国債との接続も論点に入ってくる。今回の研究会がそこまで扱うかは公表資料からは分からない。ただ、国債・日銀当座預金・ステーブルコインを省庁横断で同じ枠組みに置いた7月の金融戦略の設計を見れば、この研究会はその一角を受け持つ位置にある。
再検証推奨先
- 10月8日の第1回の議事要旨と配布資料。会議は非公開で、後日財務省の研究会ページに公開される。即時決済をどこまで論点に掲げるかを、報道ではなく公式資料で確かめる最初の機会になる
- 日本銀行が年内に出す、日銀当座預金のオンチェーン対応の論点整理。国債の研究会と対になる資金の側の答えになる
- 12月から翌年1月の研究会の議論整理。国債そのもののトークン化と、元利払いのオンチェーン決済のどちらを先に進めるかが分かれ目になる
編集メモ
財務省の公表資料は「国債のオンチェーン対応」とだけ書いており、「即時決済」という言葉は使っていない。即時決済を念頭に置くという論点設定と、米国の例への言及は、報道が伝えた財務省担当者の説明にもとづく。第1回の議事要旨が公開された時点で、この位置づけを改めて確かめる必要がある。
ことば
- T+1 — 約定(Trade)の1営業日後に決済するという意味の表記。日本の国債取引は2018年5月から国内居住者間でこの慣行になっており、研究会はそこから先の短縮を論点にする。
- 振替機関 — 証券の権利の移転を帳簿上の記録で管理する機関。日本の国債では日本銀行がこの役割を担い、国債のオンチェーン化はこの帳簿との関係をどう設計するかが問われる。
- 日銀当座預金 — 金融機関が日本銀行に置く決済用の口座。国債の代金の受け渡しもここで完了するため、国債のオンチェーン化は資金の側の対応と一体で進む。
🔗 一次ソース
- 「国債のオンチェーン対応に関する研究会」の開催について(財務省・2026年9月30日・趣旨、構成、日程の原文)mof.go.jp
国債のオンチェーン対応に関する研究会 構成員(財務省・2026年9月30日時点)財務省- 「成長投資を促進するための金融戦略」関連部分抜粋(金融庁・2026年7月21日・財務省と日本銀行への検討項目の原文)fsa.go.jp
AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム(金融庁・2026年9月25日公表)fsa.go.jp
外国中央銀行等の国債取引にかかる決済事務の見直しについて(日本銀行・2017年9月28日・国内居住者間の T+1 化を2018年5月1日約定分から実施と記載)日本銀行ホームページ
財務省、国債即時決済へ研究会立ち上げ 10月8日に初会合(ロイター・Newsweek日本版掲載)ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
日本経済新聞の報道(2026年9月30日)日本経済新聞