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SNAPSHOT 2026-11-07 23:03 JST

Deep Dive

🔬 Deep Dive|Arthur Hayes、AI 大型上場の希薄化がドル流動性を細らせると警告

Arthur Hayes 氏は、AI 大型上場株のロック解除が株価と借入金利を通じてドルの流動性を細らせると読む。Anthropic の届出書と FRB の統計で、確かめられる部分と確かめられない部分を分けた。

LiveMakers Editorial Desk

🔬 Deep Dive|Arthur Hayes、AI 大型上場の希薄化がドル流動性を細らせると警告

BitMEX の共同創業者で、ファミリーオフィス Maelstrom の最高投資責任者を務める Arthur Hayes 氏は11月5日、「D is for Dilution (D は希薄化の D)」と題したエッセイを公開した。SpaceX、そして上場を控える Anthropic と OpenAI の株は、上場後に社内の株主や初期の投資家が持ち株を売れるようになることで市場に大量に出回り、公開価格を下回っていくと主張する。

Arthur Hayes: D is for Dilution (Substack・2026年11月5日・SpaceX の約86億株と50%の希薄化、Anthropic の83%と1兆2,450億ドル、銀行の資産の週次の減少、Genlayer と FLOP Network への言及を確認)cryptohayes.substack.com

Hayes 氏が描くのは、AI 株の弱気予想の先にある経路だ。上場した AI 企業の株価が、その企業が社債で資金を集めるときの金利を決め、その金利が銀行の貸し出しを通じてドルの供給量に響き、最後に暗号資産の値動きに届く。エッセイが出た日の米国市場で、ナスダック100は6.4%下げた (ナスダック100の6.4%安)。本稿では、その経路を一つずつ、上場の届出書と公表データに当てて確かめる。数字の多くは Hayes 氏の試算であり、確かめられたものと確かめられないものを分けて書く。

時価総額ではなく、1株の値段

Hayes 氏はまず、2016年10月の Zcash (ZEC) の取引開始を例に出す。新しく掘り出された ZEC が少しずつ取引所に出るたびに、買い手は高値で飛びつき、最初の数週間に買った人の多くは今も含み損を抱えているという。ZEC の時価総額は過去最高にあるが、取引するのは時価総額ではなく1枚あたりの値段だ、と同氏は書く。

供給が速く増えれば、時価総額が伸びても1株・1枚の値段は抑えられる。これが同氏の言う希薄化で、エッセイ全体の物差しになる。暗号資産の世界でトークンのロック解除 (アンロック) の日程が値段を左右することはよく知られているが、同氏はそれを AI の大型上場株に当てはめた。

3社の株の供給、Hayes 氏の試算

Hayes 氏は、計算資源の大半を使っているのが SpaceX、Anthropic、OpenAI の3社だとして、この3社に絞る。同氏の試算は次のとおりだ。

  • SpaceX (6月12日に Nasdaq に上場): 上場からの株価はほぼ横ばいで、その間に市場で売買できる株 (浮動株) は50%増えた。2027年6月末までにさらに約86億株のロックが外れ、約50%の希薄化になる。大半はマスク氏の株の権利確定による。Tesla との合併の噂が実現すれば、さらに50%近い希薄化になりうる
  • Anthropic (上場前): 更新された届出書を AI エージェントに読ませた結果として、公開価格で買った投資家は2027年6月までに83%の希薄化に直面すると見積もる。上場時の時価総額を1.5兆ドルと置くと、株価を横ばいに保つだけで約1兆2,450億ドルの新しい資金が要る
  • OpenAI (届出書なし): Anthropic と同じ形の上場になると仮定し、2027年1月に上場すれば、6月までに同じ問題に直面するとみる

SpaceX の上場は6月12日、公開価格135ドル、調達額750億ドルだった (Anthropic の届出書を読む)。SpaceX の浮動株の増加と86億株という数字は Hayes 氏の示した図と試算で、本稿では SpaceX の開示書類と突き合わせていない。

Anthropic の届出書で確かめられること、確かめられないこと

Anthropic が11月2日に SEC へ出した届出書の改訂版 (S-1/A) を読むと、Hayes 氏の主張のうち、文書で確かめられる部分と、まだ確かめられない部分がはっきり分かれる。

確かめられるのは、売れるようになる時期の仕組みだ。届出書によると、取締役と役員、ほぼすべての株主は、上場後しばらく株を売れない契約 (ロックアップ) を結ぶ。期限は株主の区分で2段に分かれる。

  • 創業者以外の取締役・役員、一部の現・元社員、一部の株主: 上場後最初の四半期決算 (Q1) の発表の2取引日後か、上場から180日のどちらか早いほう
  • 別の一部の株主と、7人の共同創業者: 3番目の四半期決算 (Q3) の発表の2取引日後か、上場から365日のどちらか早いほう (共同創業者には段階的に外れる条件がつく)

上場から半年と1年に、売れる株の山が2度来る構造だ。届出書自身も、ロックアップの期限切れや登録の権利によって、大量の株が市場に出て株価を押し下げうると書いている。共同創業者がそれぞれ個人の持ち株の80%を慈善に充てると誓約していることにも触れ、その寄付と受け取り手の売却も株価の重しになりうると明記した。

確かめられないのは、83%という数字そのものだ。11月2日の改訂版は、発行する株数や、各区分の株主が全体の何%を持つかの欄がまだ空白になっている。公開価格と株数が決まる最終の目論見書が出るまで、浮動株に対して何株が後から出てくるかは届出書から計算できない。83%は、Hayes 氏とそのエージェントの読みとして受け取るほかない数字だ。

配当と資金の使い道は、Hayes 氏の言うとおりだった。届出書は、これまで配当を払ったことはなく、当面払う予定もないと書く。計算資源と設備に関わる購入・リースの約束は、9月30日以降の分を含めて約8,954億ドル。うち約4,475億ドルが2030年末までに、約698億ドルが9月30日から12か月の間に発生する。Hayes 氏が「約9,000億ドルの計算資源」と書いたのは、この数字にあたる。借入は9月30日時点で62億ドルだった。

株価が、借りる金利を決める

Hayes 氏の議論の中心は、株価そのものよりも、その先にある借入だ。

非上場の AI 企業は、必要な規模の社債を自力で出せず、上場している大手のクラウド企業や半導体企業に借入を保証してもらう必要があった、と同氏は言う。上場すれば機関投資家の資金に直接届き、自分の名前で社債を出せる。SpaceX は上場後に投資適格の格付けを得て、数百億ドルの社債を出したと同氏は書く。そして債券の投資家は、その会社の先行きを、毎日動く株価で判断する。株が公開価格を割り込んで下がり続ければ、債券の投資家は高い利回りを求めるか、買わなくなる。Hayes 氏は、Anthropic と OpenAI の社債は投機的な格付けを避けられないとまで言い切る。

この経路の入口は、11月5日の市場ですでに見えていた。LiveMakers の11月6日の記事が伝えたとおり、借入を増やしてデータセンターを建てる企業に対し、投資家がより高い利回りを求めているとの報道が出た日に、国債の利回りはむしろ下がっていた。国が借りる値段は下がり、AI の建設のために借りる企業の値段だけが問われた。Hayes 氏の言う「AI の信用スプレッドの拡大」は、この上乗せの部分を指す。

Anthropic の届出書も、同じ向きの危うさを自ら書いている。巨額の計算資源の約束のために多額の借入を抱え、その返済能力はキャッシュフローと資金繰りに制約されうる。債務が期限前に返済を求められれば、データセンターへの接近を失い、モデルの学習と提供が損なわれうる、とリスク要因の章にある。

銀行のバランスシートという伝達路

では、なぜこれが暗号資産に響くのか。Hayes 氏の答えは銀行だ。

同氏によれば、FRB は資産を増やしてドルを供給することに当面は動かず、ウォーシュ FRB 議長とベッセント財務長官は、信用を作るのは FRB ではなく銀行システムであるべきだという考えで一致している。だから8月に始まった暗号資産の小さな上昇は、米国の銀行の資産の拡大が支えた。その銀行は、AI とその周辺への貸し出し、株の信用取引への融資、自己勘定での株や債券の保有を通じて、AI の熱狂に深く関わっている。AI の信用市場が冷えれば、銀行の資産は良くて横ばい、悪ければ縮む。これが AI から暗号資産への伝達路だ、と同氏は書く。

FRB が毎週公表する銀行の資産の統計 (H.8) で確かめると、米国の商業銀行の総資産 (季節調整済み) は次のように動いている。

週 (水曜)総資産
8月12日25兆6,117億ドル
10月14日26兆1,266億ドル
10月21日26兆807億ドル
10月28日26兆764億ドル

8月12日から10月14日までの約2か月で、銀行の資産は約5,149億ドル増えた。Hayes 氏の言う8月からの拡大は、この数字で確かめられる。そして10月14日を山に2週続けて減った。直近の週の減少は約43億ドル、全体の0.02%に満たない。Hayes 氏自身も「1回分のデータにすぎない」と断っている。伝達路の向きを示す材料としては、まだ弱い。

どこが弱いか

Hayes 氏の主張には、点検すべき弱い環がいくつかある。

第一に、ロックが外れることと、実際に売られることは違う。外れた株を持ち続ける株主もいる。届出書は売れる時期の上限を定めているだけで、売る量は決めていない。

第二に、需要の側の数字が動いている。Anthropic の届出書によれば、4〜6月期に本業は営業黒字に転じ、売上は前の四半期の2.4倍になった。上場後の決算で伸びが続けば、新しく出てくる株を吸収する買い手は、Hayes 氏の想定より厚くなりうる。

第三に、銀行の資産の減少はまだ小さい。2週分の減少で、8月以降の増加の1割ほどが戻ったにすぎない。

一方で、Hayes 氏の議論の芯は数字の大小に依存しない。上場した瞬間から、AI 企業の評価は毎日の株価という誰にでも見える値段にさらされる。これまで非上場の資金調達の場で決まっていた評価が、公開市場で毎日付け直される。その値段が下がる日には、AI に貸している全員が同じ値段を見る。この「見える化」が、同氏の議論の最も強い部分だ。

書き手の立場

Hayes 氏の運用会社 Maelstrom は、この局面では様子見に徹するとエッセイで書いている。一方で同氏は、データセンターの稼働で計算資源が余れば AI エージェントの利用が増えるとし、その恩恵を受ける例として、Maelstrom が助言する Genlayer と、同じく名前を挙げた FLOP Network を紹介し、Genlayer のトークン発行の予定にも触れた。エッセイ冒頭には、記載は個人の見解であり投資判断の根拠にすべきではないとの注記がある。本稿も、エッセイで紹介された銘柄や Maelstrom の売買の見通しを読者への推奨として扱わない。

AI の資本循環が、公開市場に移る

Hayes 氏の議論を同氏の相場観から切り離すと、残るのは資本の流れの変化だ。

AI の計算資源への投資は、これまで非上場の大型調達、大手クラウド企業の設備投資、そして大手の保証つきの借入で賄われてきた。SpaceX の上場と Anthropic の届出書は、その資金の出し手を公開市場の投資家と社債の投資家へ広げる動きにあたる。Anthropic の約8,954億ドルの約束は、2045年まで続く支払いだ。この規模の資金を、毎日値段が付く市場から集め続けることになる。

その市場は、暗号資産と同じドルの流動性の上に乗っている。11月5日には、ナスダック100の下げと同じ日にビットコインも約5%下げた。AI 株の供給の日程は、これからの1年、暗号資産の参加者にとっても読むべき日程表になる。アンロックの日程を追う習慣は、暗号資産の側が先に身につけていたものだ。

次に見るもの

確認先は2つある。1つ目は、Anthropic が公開価格と株数を決めた後に SEC へ出す最終の目論見書だ。今の改訂版で空白になっている発行株数と、各区分の株主の持ち分の比率が埋まれば、上場後180日と365日に何株が売れるようになるかを計算でき、Hayes 氏の83%と突き合わせられる。

2つ目は、FRB が毎週金曜に公表する H.8 の商業銀行の総資産だ。10月14日を山にした減少が3週目、4週目と続くか、8月以降の増加分をどこまで戻すかで、Hayes 氏の伝達路が数字に出始めたかどうかが分かる。

ことば

  • 希薄化 — 会社の株の総数が増えて、1株あたりの持ち分や利益が薄まること。上場後にロックアップが外れて売れる株が増えるときも、市場に出回る株の供給が増える意味で使われる。
  • ロックアップ — 上場の前から株を持つ経営陣や投資家が、上場後の一定期間、株を売らないと約束する契約。Anthropic の届出書では、期限が上場後の半年と1年の2段に分かれている。
  • H.8 — FRB が毎週公表する、米国の商業銀行の資産と負債の統計。貸し出しや保有する証券の増減が分かり、銀行が信用をどれだけ作っているかを見るのに使われる。

🔗 一次ソース

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