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📡 Signal|米財務省、ロシア系決済網 A7 を国際犯罪組織に指定
米財務省がロシア系決済網 A7 を国際犯罪組織に指定し、FinCEN が UAE などの代理会社を通る送金の禁止を提案。イランの制裁回避とルーブル建てステーブルコイン A7A5 にも及ぶ措置の中身。
米財務省は10月1日、ロシアとつながる決済網「A7 Network」を重大な国際犯罪組織に指定し、同時に金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)が、A7 の海外のダミー会社を通る送金を米国の金融機関に禁じる規則案を出した。財務省はこの決済網を、イランが制裁を逃れるために使う「影の銀行網」と位置づけている。
狙いは一社ではない。A7 は数百社の海外の代理会社を通じて資金を動かしてきた。今回の規則案は、その代理会社が絡む取引を「類型」としてまとめて止めにいく設計で、制裁の単位が会社の名前から取引の型へ広がった。ルーブル建てステーブルコイン A7A5 を含む、法定通貨と暗号資産の両方の経路が対象の視野に入っている。
指定と規則案、二つの措置
一つ目は財務省外国資産管理局(OFAC)による指定だ。A7 Network を重大な国際犯罪組織に指定し、米国内にある、または米国人の管理下にある A7 の資産は凍結される。A7 の代理として動く Sub-Agent(代理会社)が絡む取引もこの対象に含まれ、指定先が合計で50%以上を持つ会社も自動的に凍結の対象になる。
二つ目が FinCEN の規則案で、根拠はロシア資金洗浄対策法の9714条(a)だ。FinCEN は「米国外で営業し、A7 に支配されている会社」が関わる取引を、ロシアの不正資金に関する「主要な資金洗浄懸念のある取引類型」と認定した。そのうえで、米国の対象金融機関がこの類型に関わる一定の送金を行うことを禁じる措置を提案している。
規則案は代理会社の例として、Galadriel Trading FZCO、Gimli Trade LLC-FZ、Hydrofusion Resources FZ-LLC、Pearl Bridge、Power Sphere LLC-FZ、Sigizmund FZCO の6社を挙げる。いずれも UAE を拠点とする会社で、定義は「これらに限らない」とされ、FinCEN が今後特定する代理会社も含む。FinCEN は金融機関向けの注意喚起(Alert)も同時に出し、A7 が絡む取引を見分けるための兆候の一覧を示した。
数百社の代理会社でつくる決済網
規則案によると、A7 は逃亡中のモルドバの富豪イラン・ショル氏と、ロシアの国営防衛銀行プロムスビャジバンク(PSB)が作った。中核はロシアの A7 LLC と子会社2社で、ショル氏と PSB が共同で所有し、米国・EU・英国の制裁を既に受けている。
決済網の要は代理会社にある。A7 は香港、インドネシア、キルギス、セーシェル、トルコ、UAE などの第三国で会社を設立・買収・提携し、書類上は第三国の人物が所有・経営しているように見せる。2026年6月時点で代理会社は数百社にのぼり、少なくとも83か国の約435の金融機関に口座を持っていたという。代理会社を通すことで、ロシアの銀行に対する制裁があっても、コルレス銀行(海外送金の中継銀行)と外貨の流動性に手が届く。
規模の数字は二つある。一つは A7 自身の説明で、2026年1月時点で1日2,000件超の取引を処理し、取引総額は7.5兆ルーブル超(約915億ドル)にのぼるとしている。ロシアの2025年の対外貿易取引の約13%に相当する規模だという。もう一つは FinCEN の調査による数字で、代理会社が2025年1月から2026年6月に処理した額は世界全体で170億ドルを超える。
イランとの接点
財務省がこの措置を「イランが使う制裁回避網」への行動として打ち出した根拠は、取引の中身にある。規則案は、イラン中央銀行とイスラム革命防衛隊(IRGC)が A7 を利用していると指摘する。
ある代理会社は、イランが石油を密かに売るために使う「影の船団」に関わる事業体などから約1億4,000万ドルを受け取っていた。別の代理会社は、イランの制裁回避と武器調達に関わる会社へ約160万ドルを送っている。A7 はイラン最大の暗号資産取引所 Nobitex(2026年6月2日に OFAC が指定)とのつながりも指摘され、北朝鮮による暗号資産取引所へのハッキングに関わる取引にも使われたとされる。
ベッセント財務長官は声明で、米国の敵対者の不正な資金を手助けすれば「米国の金融システムへのアクセスを失う」と述べた。
A7A5、法定通貨の経路とトークンの経路
A7 の経路は銀行送金だけではない。規則案によると、A7 は Tron と Ethereum で動くルーブル建てステーブルコイン A7A5 を使い、銀行経路が使いにくい場面で A7 関連の当事者間の価値移転に充ててきた。発行はキルギス登録の Old Vector LLC で、裏付けのルーブル預金は PSB に置かれている。つまり A7A5 の取引には、どれも制裁対象のロシアの銀行が裏にある。
A7A5 と A7 LLC、Old Vector LLC は2025年8月14日に OFAC の制裁対象になっていた。トークンの経路は1年以上前に名指しされ、今回は法定通貨の経路、つまり第三国の代理会社を通るドル送金に網がかかった。ステーブルコインが制裁回避の経路になりうるという議論は、ここでは仮定ではなく、規制当局の文書に書かれた事実として扱われている。
次に見るもの
確認できる次の一点は、規則案の連邦官報への掲載日だ。意見募集は掲載から30日で締め切られ、その後に最終規則へ進む。FinCEN の Alert が示した兆候の一覧に沿って、米国の銀行が UAE などの貿易会社との取引をどこまで洗い直すかが、規則が確定する前の実務の変化として表れる。
もう一つは、指定が A7 の数百社の代理会社のどこまで及ぶかだ。規則案は6社を例示し、残りは FinCEN が金融機関に安全な手段で情報を渡すとしている。名指しの範囲が広がれば、ドバイを中心とする貿易決済の経路そのものが組み替えを迫られる。
ことば
- 9714条(ロシア資金洗浄対策法) — 米国防権限法に盛り込まれた条文で、ロシアの不正資金に関わる金融機関や取引の類型を「主要な資金洗浄懸念」と認定し、送金禁止などの特別措置をかける権限を財務省に与える。今回は代理会社が絡む取引の類型にまとめて適用された。
- A7A5 — ロシアの PSB に置いたルーブル預金を裏付けとするステーブルコイン。Tron と Ethereum で動き、ロシアの銀行が制裁で使いにくい国際決済の代わりの経路として使われてきた。
- Sub-Agent(代理会社) — A7 が第三国で設立・買収した会社。書類上は現地の人物が所有し、普通の貿易会社に見えるが、実際は A7 の支配下で送金の受け手・出し手になる。
🔗 一次ソース
- Operation Economic Outcast Takes Unprecedented Action Against Sanctions Evasion Network Used by Iran(米財務省・2026年10月1日)home.treasury.gov
- Proposal of Special Measure Prohibiting the Transmittal of Funds Regarding Transactions Involving the A7 Network's Sub-Agents(FinCEN・規則案の概要ページ)fincen.gov
- 規則案本文 PDF(FinCEN・代理会社6社の記載と A7A5 の説明を確認)fincen.gov
- FinCEN Alert on the A7 Network(FinCEN・金融機関向け注意喚起 PDF)fincen.gov